深夜。
目を覚ましたミカエルがベッドから起き上がる。
枕元にはアランからもらったテディーベアがある。
寝室を出て、アランの眠るソファーへと近づく。
アラン「・・・・。」
ここは・・・この前見たのと同じ景色・・・。
スターライトショアか。
少し肌寒い・・・朝か。
リアの家だ。
ダニー「ウゥーーー!」
なんだあの犬、うるせぇな。
俺に吠えてるのか。
あの犬には俺が見えてるってことか。
リア「ダニー、どうしたの~?」
リア、この前と同じ髪色。
夏服だし・・・この前見たのと同時期の時間線か。
リア「ん・・・?」
リア「アラン・・・?」
え?
リア「やっぱりアランだ。」
リア・・・?
俺の夢の中・・・にしては肌のぬくもりとか感触がリアルすぎる。
リア「アラン、パジャマ姿ってことは今寝ている状態なのね。」
リア「ここは精神世界。アランは寝ている状態でこの空間に入ってきて、今私と繋がった。」
リア・・・昔より感覚が上がった?
リア「うん。子供を産んでから覚醒したみたい。前よりもっと色々感じるようになったよ。今ね、占いのお仕事もしてるの。だからよけいにだと思う。だからこうしてアランとも繋がれた。」
リア「アラン。ずっと逢いたかった。」
俺もだよリア。
リア「アラン元気だった?」
うん。
リア「今どこにいるの?」
ショアから遠い場所。自然が多くていいところだよ。のんびり暮らしてる。
リア「そうなんだ。」
うん。
リア「私ね、レオンさんと結婚したの。子供も二人いるよ。」
うん。
リア「すごく幸せだよ。でもアランのこと忘れたことなんてない。ずっと想ってたよ。」
俺もだよ。
リア「アラン。」
リア「約束覚えてる?」
うん。
リア「来世で一緒になるって。アランがそう言ってくれた時私すごく嬉しかったよ。」
生まれ変わったら絶対にリアを見つけ出す。どんなに姿かたちが変わっても。だから俺のこと待ってて。
リア「うん。でも・・・その前にアランも幸せになって。今からでも遅くないよ。」
うん。
リア「大切な人を見つけて。そして幸せになるの。今世はそのために生きて。自分を大事にしてアラン。」
うん。
リア「大好きだよアラン。」
リア「アラン・・・。」
アラン・・・・アラン・・・・・
アラン「ん・・・・。」
ゆっくりとアランが体を起こす。
アラン「お前・・・今俺のこと呼んだか?」
ミカエルが少し考えてから頷く。
アラン「声出せるか?」
ミカエルが首を振る。
アラン「そっか・・・。」
アラン「眠れないのか?」
ミカエルが頷く。
アラン「おいで。」
手を引いて寝室へと向かう。
二人してベッドへ入るとミカエルの小さな体を胸に抱き寄せる。
アラン「さっきな・・・天使の夢をみてたんだ。」
アラン「俺の大好きな天使だ。純粋に人を愛することができる人だ。今は人間だけどな。」
アラン「天使ってわかるか?この世界の人間たちを見守って導いてくれる存在だ。強くて美しくて尊い存在だ。・・・だが人間と同じで、一歩間違えると悪魔にもなれる、そんな危うい存在なんだ。」
アラン「ミカエル。お前の名前は4人いる天使長の一人、ミカエルと同じ名前だ。強くて優しい、戦う天使だ。」
アラン「お前も強くて優しい人間になれ。きっとアリエルはそう願ってお前にその名前を付けたんだ。」
背中に回した腕でミカエルがぎゅっとしがみつく。
アラン「強いって言うのは喧嘩が強いって意味じゃない。気持ちが強いってことだ。どんなに嫌なことがあっても歯を食いしばって耐えろ。どうしてもダメなら逃げたっていい。誰かに助けを求めてもいいんだ。だけど気持ちだけは負けるな。自分を信じて強く生きろ。お前ならできる。」
アラン「いい名前をもらったなミカエル。美しい名前だ。」
アラン「自分のこと・・・大事にしろ・・・。」
言いながらアランが眠りに落ちる。
翌朝。
暖かい日が差すテラスで、いつものようにアランが洗濯物を干している。
朝食を食べ終えたミカエルがテラスへとやってくる。
アラン「ん?どうした?」
ミカエルがなにか言いたげにじっと見つめる。
アラン「釣りに行くか。」
ミカエルが嬉しそうに笑って頷く。
アラン「その前にスーパー行くぞ。店の買い物と、今日は買った餌で釣ろう。」
食材を買い込んだアランとミカエルが店から出てくる。
ジャスミン「あら?買い物?」
アラン「よぉ。」
ジャスミン「こんなところで会うなんて奇遇ね。」
アラン「あんたこそ。」
ジャスミン「暇だから街をブラブラしてたの。あんたたちは?」
アラン「店の買い出しだ。」
ジャスミン「今からどっか出かけるの?」
アラン「この後は釣りに行く。」
ジャスミン「釣り?熱帯魚でも釣るわけ?」
アラン「海じゃない。湖だ。」
ジャスミン「へぇ~。湖なんてあるんだ?面白そうじゃない。私も連れてってよ。」
アラン「断る。どうせ釣りなんかしたことねーだろ。」
ジャスミン「もちろん釣りには興味ないけど、湖なら行ってみたいわ。」
アラン「やだね。」
ジャスミン「別に一人増えたくらいいいじゃないの~。釣りの邪魔はしないわよ。この島のことまだよく知らないから面白そうなスポットがあるなら行ってみたいのよ。案内してよ~。」
アラン「はぁ?なんで俺が・・・。」
ジャスミン「いいじゃないの~。ねぇ?ミカエル。私も一緒に連れてってよ。」
ゆっくりとミカエルがジャスミンに近づく。
ミカエルがジャスミンの手を握る。
ジャスミン「ほら、ミカエルも私と一緒がいいって。」
アラン「ったく・・・・。しょうがねーな・・・・。」
アラン「日陰なんてあんまりねぇから日に焼けるぞ。日焼け止め買わなくていいのか?」
ジャスミン「持ってるから大丈夫よ。さすがモテる男は気が利くわね。」
アラン「じゃあさっさと行くぞ。」
遠くで釣りをする二人をベンチに座ってジャスミンが眺めている。
ジャスミン「・・・・。」
アラン「ちょっとあっちに行ってくる。お前は頑張って大物釣れよ。」
ミカエルが頷く。
釣りをやめてアランがその場を離れる。
アラン「つまんねーって顔してんな。」
ジャスミンの元へやってきたアランが声をかける。
ジャスミン「そう見える?私これでも結構楽しんでるわよ?」
アラン「そっか。」
ジャスミン「今までローリングハイツに住んでてその前はブリッジポートでしょ?こういう自然ってあんまりなかったのよね。だから新鮮って感じ。」
アラン「まぁそうだろうな。あんた、生まれはどこなんだ?」
ジャスミン「スターライトショアよ。あの街もわりと都会だし、公園くらいしか自然はなかったわね。」
アラン「そうか。」
ジャスミン「虫とかは苦手だけど、海とか湖とか、水のある場所は結構好きなのよね。」
ジャスミン「あの子はどこの出身なの?」
アラン「お前と同じ、スターライトショアだ。」
ジャスミン「へぇ~。確かに都会の子って雰囲気よね。」
アラン「うん。」
ジャスミン「それにしてもあの子、数日前とすっかり変わったわよね。」
アラン「あんたもそう思うか?」
ジャスミン「ええ。最初会ったときはいっつも無表情だった。人見知りもあったのかもだけど。」
ジャスミン「すごく表情が明るくなったわよね。」
アラン「うん。」
ジャスミン「ホントはやっぱりあんたの子供なんじゃないのぉ~?昔の女がこっそり産んでたんでしょう?」
アラン「そんなわけねーだろ。」
ジャスミン「ふぅ~ん。」
アラン「・・・・。」
アラン「エミリー。」
ジャスミン「え?」
アラン「この前言ったよな。恋愛にもヒエラルキーがあるって。」
ジャスミン「・・・たしかにそんな話したけど。」
アラン「純粋な人間は純粋な者同士、汚れた人間は汚れた者同士って。確かに俺もそれはあると思う。それは同じレベルだから、同じ階層でしか繋がれないからだ。」
ジャスミン「・・・・。」
アラン「だったら自分がその階層を上がればいい。何年かかっても、その汚れを落として上の階に上がって行けばいいんだ。ずっと同じ場所に留まって居ないで。」
ジャスミン「・・・どうやって?」
アラン「生活を変える。生き方を変える。悪いやつだとわかってるならそいつと付き合うのをやめる。やっていることが正しくないとわかっているならそれをやめる。誘惑に負けてラクなほうに流されるのをやめる。」
ジャスミン「・・・・。」
アラン「それを続けてみる。何年かかっても、自分の心や体にこびりついた汚れがそがれて綺麗になるまで。」
ジャスミン「・・・そうしたら上の階に上がれるの?」
アラン「ああ。」
ジャスミン「そしたら純粋な愛が見つかる?」
アラン「ああ。自分自身も、純粋に人を信じて愛することができたらな。」
ジャスミン「・・・そっか。」
アラン「・・・・。」
アラン「そろそろ釣りを再開しねーと、昼飯に間に合わねーな。」
アランがベンチから立ち上がる。
立ち去るアランの後ろ姿をジャスミンが見つめる。
ジャスミン「(何年かかっても・・・・。アランは何年かかったの・・・・?)」
ジャスミン「(私の穢れが落ちるまで、あと何年かかるの・・・・?)」
昼過ぎ。
アラン「保険でホットドッグの材料買っといてよかったなw」
ジャスミン「ホントねw」
ジャスミン「でも、こんな簡単なランチでも外で食べると気持ちいいわね。すごく美味しく感じるわ。」
アラン「だろ?」
突然食べるのをやめてミカエルがアランを見つめる。
アラン「どうした?」
ミカエル「・・・・。」
アラン「ああ、この前の食物連鎖の話か。人間や大きな動物はどうなるかって?」
ミカエルが頷く。
アラン「人間や大きな動物は誰にも食べられずに死ぬ。体が死んで土に返る。雨が降って地面の栄養になる、そこから植物が生まれる、それを草食の動物が食べる、そうして回ってるんだ。」
アラン「それから、死んだ人間や動物の魂は目に見えないくらい小さな粒子になって空気に返る。空気になって、自分の家族や友達や仲間たちを見守ってるんだ。だからお前の母親は、いつもお前のこと見守ってくれてる。」
アラン「だからお前はいっぱい食って、大きく育つんだぞ。」
頷いたミカエルがホットドックを食べ始める。
ジャスミン「ふふっw」
ジャスミン「面白い話ね。」
アラン「まぁな。」
ジャスミン「ミカエル、私もそういうの聞いたことあるわよ。死んだ人間は生きていた時の自分のことを知ってる人たちがいなくなったら、つまり自分の家族や友達も死んじゃって、誰も見守る人間がいない世界になったらやっと安心して天国へ行くの。」
ジャスミン「天国では次の人生を自分で決めるんだって。次に自分がどんな人生を歩んでどうやって困難を乗り越えていくか、全部自分で決めて生まれ変わるの。」
ミカエル「・・・・。」
ジャスミン「生まれ変わったらもう天国にいたことなんて忘れちゃってるらしいんだけどね。でもそうやって、人間は何度も死んでは生まれてを繰り返しているのよ。」
アラン「あんたもそういう話好きなんだな。」
ジャスミン「言ったでしょ。読書が好きだって。」
陽が暮れて3人が家に戻ってきた。
玄関前でアランが立ち止まる。
アラン「じゃあ俺はこのまま仕事にいってくるから、あとよろしくな。」
ジャスミン「うん。いってらっしゃい。」
アラン「いってきます。」
車へ戻るアランの後ろ姿を見送る。
ミカエル「・・・・。」
ふいにアランを追いかけてミカエルが駆け出す。
アラン!
アラン「お前いま・・・声出せるようになったな!」
アランが振り返って腕を伸ばしてきたミカエルを抱きしめる。
ジャスミン「出してないわよ?」
アラン「え?」
ジャスミン「声なんて出てなかったけど・・・。」
アラン「そうなのか・・・?俺にはいま・・・・。」
ミカエル「・・・・。」
アラン「まぁ・・・そのうち出せるようになるさ。」
ミカエル「・・・・。」
アラン「焦らなくていいから、少しづつ練習していけばいい。」
ミカエルが小さく頷く。
アラン「じゃあ、いってくる。」
ミカエルが頷く。
ミカエル「・・・・。」
ジャスミン「・・・・。」
アランの車が遠くなっていく。
ジャスミン「ご飯作るから、あんたも早く家に入りなさいよー。」
ミカエル「・・・・。」
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