アイビーがベッドカバーの皺を丁寧に伸ばす。
アイビー「これでよしっと。」
アイビー「 (寝具は全部クリーニング出したし、掃除機もかけた。今日はこのくらいでいいかな。テラスのお掃除は今度晴れた日にやろう。) 」
アイビー「 (帰ってなにしようかな~・・・。意外に暇だな私・・・。) 」
アイビーが階段をゆっくりと下りていく。
アイビーがコートを着て帰る支度をしているとドアが開いてマシューが入ってきた。
アイビー「あっ。」
アイビー「マシューさん。こんにちは。」
マシュー「やはりあなたでしたか。」
アイビー「・・・?」
マシュー「この部屋にはアラームがついていますので誰かが入ればすぐにわかるようになっています。」
アイビー「そうなんですか。」
マシュー「ミランダ様は旅行だと言ったはずですが・・・いったいここでなにを?」
アイビー「すいません。もうすぐミランダさんも帰ると思ったので、部屋の掃除をしてました。」
マシュー「・・・・あなたは使用人でもないんですから。そんなことはする必要ないですよ。毎週プロの清掃業者も入っていますし。」
アイビー「わかってるんですけど・・・気になっちゃって。空気の入れ替えとかもしたかったんです。・・・・雨でしたけど。」
マシュー「・・・・そうですね。」
アイビー「あの・・・。」
マシュー「はい。」
アイビー「ミランダさんは、いつお戻りですか?」
マシュー「予定では明日と聞いておりますが・・・・以前も申した通り、延期なさる可能性もあります。」
アイビー「そうですか・・・。」
マシュー「ご自分で連絡なさらないんですか?」
アイビー「いえ・・・。ゆっくりしたいでしょうから。」
マシュー「・・・なるほど。」
アイビー「じゃあ、帰りますね。」
マシュー「はい。お気をつけて。」
アイビー「ありがとうございます。」
アイビーがドアを開けて部屋を出て行く。
マシュー「・・・・・。」
ポケットから携帯電話を取り出し、登録された番号へと電話をかける。
マシュー「もしもし。私です。」
ミランダ「なあに?」
マシュー『先ほどまでアイビー様がいらっしゃっていて、たった今お帰りになられました。』
ミランダ「・・・・それで?」
マシュー『掃除をしに来たとのことです。警報機も鳴っていませんので、クローゼットの金庫には触れていないかと。』
ミランダ「そう。」
マシュー『ミランダ様・・・・クローゼットの鍵をかけなかったのは、意図したことですか?』
ミランダ「・・・・どうかしらね。」
マシュー『明日清掃業者が入る予定ですので、鍵は閉めさせていただきますがよろしいですか?』
ミランダ「お願いするわ。クローゼットの掃除はあなたに任せるわ。」
マシュー『かしこまりました。』
ミランダ「ほかには?」
マシュー『アイビー様にも尋ねられたのですが・・・・明日お帰りになられますか?』
ミランダ「・・・・まだ決めてないわ。」
マシュー『かしこまりました。決まり次第ご連絡ください。空港までお迎えにあがります。』
ミランダ「ええ。・・・じゃあね。」
マシュー『はい。失礼いたします。』
ミランダが携帯電話を切って画面を見つめる。
ミランダ「・・・・。」
ドアをノックする音が響いた。
リリィ「おはよう。起きてたのね。」
ドアが開いてリリィが入ってくる。
ミランダ「腰が痛くてマッサージを呼んだの。」
リリィ「あら、いいわね。私もやってもらおうかしら。」
ミランダ「昨日も呼んだんだけど、なかなかよかったわよ。」
リリィ「高いんじゃないの~?口止め料も含まれてるんでしょ。」
ミランダ「平気よ。かなり高齢の老婆だったからきっと私のことなんて知らないわ。」
リリィ「あなたほどの大女優、この国で知らない人なんていないわよ。私があとでちゃんと口止め料払っておくわ。」
ミランダ「悪いわね。」
リリィ「一応あなたの雇われ社長ですからね。」
ミランダ「ふふっ。」
リリィ「それにしてもあなた、今日も出かけない気?こんなにいいお天気なのにもったいないわよ。」
ミランダ「パパラッチに見つかって困るのは私だけじゃないでしょ。」
リリィ「それはそうだけど、この別荘は私の私有地だし、ビーチだってプライベードビーチで立ち入り禁止よ。ちゃんと警備員も雇ってるんだし。」
ミランダ「日焼けしたくないのよ。」
リリィ「元々浅黒いんだから、少しくらいいいじゃないの。」
ミランダ「あら失礼ね。肌の色と紫外線はまた別の問題よ。」
リリィ「そうやって結局一週間ずっと引きこもってるじゃないの。」
ミランダ「元々こういう性格なの。あなたも知ってるでしょ。」
リリィ「・・・・あなたは昔からそうだったわね。人に会うのを嫌ってた。私もよくあなたみたいな女と友達になったと思うわ。」
ミランダ「最初に近づいてきたのはそっちでしょう。」
リリィ「そうだったかしら?」
ミランダ「そうよ。リリィは人の領域に簡単に入ってきた。誰にでもそうだったわ。」
リリィ「あなたはそれを怖がってたわね。」
ミランダ「怖がってなんか・・・。」
リリィ「私にはお見通しよ。あからさまに不信がってたもの。」
リリィ「あの子のこと、怖いんじゃないの?」
ミランダ「あの子って?」
リリィ「アイビーよ。」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「あの子があなたの領域に入るの、怖いんでしょう?」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「でも先に子供のことであの子を受け入れるフリをしたのはあなたよミランダ。」
リリィ「子供を託すのも・・・・ホントはあの子に対する復讐のつもりなんじゃないの?」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「だけど予想外にあの子のほうから領域に踏み込んできたから怖くなった・・・・そうなんでしょう?」
ミランダ「・・・・さぁ。どうかしらね。」
リリィ「ミラ・・・。」
ミランダがゆっくりと立ち上がる。
リリィ「・・・・もしあなたが後悔してるなら、本当に私が引き取ってもいいのよ。」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「あなただって、本当は嫌なんじゃないの?あなたがあの子のこと好きになれないのは当然だと思うもの。」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「でもだからって復讐なんて・・・自分がつらいだけよ。」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「ミラ・・・。」
ミランダ「わからないのよ。」
ミランダ「誰を信じていいのかも。・・・・自分の気持ちでさえも。」
リリィ「・・・・。」
アンナ「さっきの撮影、すごくよかったってカメラマンが褒めてたわよ。」
アイビー「本当?よかった。」
アンナ「CMの撮影も久しぶりだったわね。」
アイビー「お酒のCMだったから、私あんまり呑めないし不安だったんだよね。」
アンナ「撮影では本物は呑ませないわよ。酔って撮影にならなかったら意味ないでしょ。」
アイビー「やっぱりそうだよね。」
アンナ「次は久しぶりにキャネルの撮影ね。」
アイビー「うん。ちょっと緊張するな。」
アンナ「春の新作リップとシャドーよ。2ヶ月近く休んでたあなたを広告塔から外さなかったのは、キャネルの社長があなたを気に入ってくれてるのもあるけどリリィ社長の信用もあるのよ。感謝しなさい。」
アイビー「はい。」
アンナ「来月にはキャンペーンで忙しくなるわ。今のうちにゆっくりしておいて、体調管理をしっかりね。」
アイビー「わかりました。」
アイビー「アンナさん。」
アンナ「なぁに?」
アイビー「リリィ社長は今旅行中だよね?」
アンナ「今夜帰ってくる予定よ。」
アイビー「会えるかな?」
アンナ「なに?仕事のこと?」
アイビー「ううん。個人的な相談なんだけど・・・。いつでもいいから会いたいって伝えてほしいんだ。」
アンナ「聞いといてあげるわ。」
アイビー「うん。お願いします。」
アイビー「 (社長は今日帰ってくるんだ・・・?ミランダさんは、一緒に帰ってくるのかな?明日、おうちに行ってみよう。) 」
アンナ「来週はCM発表会のあとにパーティーがあるわよ。」
アイビー「パーティーかぁ~。久しぶりだな。」
アンナ「ドレスはどうする?」
アイビー「う~ん・・・。」
アンナ「この前のD&Gの新作ドレス、急いで取り寄せましょうか?」
アイビー「そうだね・・・。お願いします。」
アンナ「了解。」
翌日。
アイビー「こんにちは~。」
アイビーがドアを開けてミランダの部屋へと入る。
アイビー「ミランダさん?」
返事はなく部屋は静まりかえっている。
アイビー「 (寝てるのかな?) 」
アイビー「・・・・。」
アイビー「 (まだ帰ってきてないのかな・・・・。社長は帰ったってアンナさんから聞いてたのに・・・・。) 」
アイビー「 (今日はバスルームの掃除だけして帰ろう。) 」
2時間後。
アイビーが帰ろうと玄関へむかっているとドアが開きマシューが入ってきた。
アイビー「マシューさん。こんにちは。」
マシュー「やはりあなたでしたか。」
アイビー「今日はバスルームの掃除を・・・。雨なのでテラスはなかなか掃除できなくて。」
マシュー「そうですか。」
アイビー「あの・・・ミランダさんは・・・。」
マシュー「まだサンリットにいらっしゃいます。」
アイビー「リリィ社長と一緒に戻らなかったんですか?」
マシュー「そのようですね。」
アイビー「そうですか・・・。」
マシュー「はい。」
アイビー「いつ戻られるかは、わかりますか?」
マシュー「いいえ。まだ決めていないとのことでした。」
アイビー「そうなんですか・・・・。」
マシュー「はい。」
アイビー「あの・・・・ミランダさんは、元気そうでしたか?」
マシュー「・・・・?はい。」
アイビー「そうですか。元気そうならよかったです。」
マシュー「・・・・。」
アイビー「きっとむこうでゆっくりできているんですね。」
マシュー「・・・・そうだと思います。」
アイビー「ミランダさんが帰ってきたら連絡してもらえますか?食事を作ってさしあげたいので。」
マシュー「・・・・かしこまりました。以前教えていただいた電話番号でよろしいですか?」
アイビー「はい。お願いします。」
マシュー「了解いたしました。」
アイビー「それでは私はもう行きますね。」
マシュー「お気をつけて。」
アイビー「はい。」
アイビーがドアを開けて出て行く。
なで肩さんこんばんは^^
返信削除アイビーちゃんはミランダさんが留守中でも相変わらず通っているんですねw
マシューさんは一応、ミランダさんにアイビーちゃんが来たことを報告してるんですねw
しかもクローゼットを開けておいて試しているような事をしているとは・・・
やっぱり、信用は出来てないみたいですね、まだ。
その後のリリィさんとミランダさんの会話でも出てきたけど、復讐って・・・
ミランダさんは自分の気持ちがよく分からないみたいだけど、ミランダさんのことなら何でも分かるリリィさんが言ってるんだから、どこかでそういう気持ちもあるんでしょうね・・・
信じたいって気持ちもあるんだろうけど憎しみみたいなのもあるのかな~。
どう考えても、子供を託す条件として、信頼しているリリィさんに託すっていうのが本来の流れ的には自然ですよね、いくらアイビーちゃんがロミオの婚約者だったとしても。
それがアイビーちゃんにって言う時点で、当てつけみたいのもあるのかなぁ・・・
本心は分からないですけど・・・
ミランダさんのアイビーちゃんに対する気持ちとアイビーちゃんのミランダさんに対する気持ち、かなりすれ違ってますよね(´Д`|||)
ミランダさんが戻ってきたらどうなるのか、そしてリリィさんと会ってどんな話になるのか・・・気になりますね(´・ω・`)
>ゆきさん
削除いつもありがとうございます(´∀`)
アイビーはいつ帰るかもはっきりしないミランダのことを待ちつつせっせと通い妻してますねw
ミランダはまるで試すかのようなことをしてマシューにもバレてますがw
リリィは親友なので、ミランダの内面の奥に隠れた復讐心を見抜いているようですね。
ミランダ自身、そう思っていなくてもどこかにそういう気持ちがあるからか、はっきりとは否定もできませんでしたね。
ミランダがアイビーに抱いている気持ちは、ミランダ自身もよくわかっていないんですよね。
彼女はプライドが高いので全く表には出しませんが、正直いって嫉妬しなかったわけではないし、ロミオが自分を抱くたびに、アイビーへのロミオの気持ちを思い知らされていたわけで。
かといって憎しみや嫉妬の塊を素直にぶつける方法も知らないし、そんなことができるほど可愛くも幼くもないんですよね。
自分がどうしたいのかもよくわからないんでしょうね。
そしてリリィのいうように、アイビーが自分の領域に入ってこようとしていることにかなり戸惑っているんですよね~。
たしかに、ミランダの気持ちとアイビーの気持ち、完全にすれ違っていますねw
この先この二人がわかちあう日がくるのかどうか(;^ω^)