久しぶりに店を開けたマスターが誰もいない静かな店内でグラスを磨く。
マスター「・・・・。」
車の立ち去る音に気づき、ゆっくりと顔をあげる。
涼やかなチャイムの音が響き、女性が入ってくる。
マスター「待ってたわ。」
ミランダ「来るってわかってたみたいな言いぐさね。」
マスター「もちろんよ。」
ミランダ「あいかわらずねマスター。」
ミランダがカウンターに座る。
マスター「あなたはもう大丈夫のようね。」
ミランダ「強くなきゃやってられないわよ。」
マスター「何にする?」
ミランダ「お酒飲めない状態ってわかってるんでしょう?」
マスター「残念ね。あなたの好きなコーヒー、仕入れたばかりなのに。」
ミランダ「あいかわらず意地悪なんだから・・・。ミックスジュース、あるかしら?」
マスター「了解。」
一ヶ月が過ぎた。
アイビー「ん・・・・。」
アイビーがベッドから体を起こす。
ゆっくりとした足取りで寝室を出る。
キッチンからは人の気配がする。
アイビー「ラト・・・・来てたんだ?」
ラトーシャ「あ、起こしちゃった?」
アイビー「ううん・・・。大丈夫。」
ラトーシャ「ご飯だけ作りに来たんだ。食べれる?」
アイビー「うん。ありがとう。」
ラトーシャ「冷蔵庫に今入れたばっかりだから、すぐならチンしなくても大丈夫だと思う。」
アイビー「わかった。」
ラトーシャ「今日はディーンが日勤だから、またすぐ戻らなきゃいけなくて・・・ごめんねゆっくりできなくて。」
アイビー「別にいいのに。わざわざ作りにきてくれなくても・・・。」
ラトーシャ「私が顔みたいだけだから、気にしないで。」
アイビー「うん・・・・。ごめんね、いつも・・・・。」
アイビーが力なく笑う。
ラトーシャ「 (アイビー・・・痩せたな・・・・。) ねぇアイビー・・・。」
アイビー「うん?」
ラトーシャ「ちゃんと、食べてる?」
アイビー「うん。食べてるよ。」
ラトーシャ「そっか・・・。もしリクエストあったら作るから、遠慮なく言ってね。」
アイビー「うん。ありがと。」
ラトーシャ「あ、明日の朝はマロンさんが来てくれるって。」
アイビー「そうなんだ?」
ラトーシャ「じゃあ私そろそろ帰るね。」
アイビー「うん。いろいろありがとう。気をつけてね。」
ラトーシャ「うん。」
ラトーシャがバッグを手に階段を下りていく。
アイビー「・・・・。」
玄関が閉まる音を聞いてからアイビーがキッチンの冷蔵庫を開ける。
ラトーシャの作った料理をテーブルに置いて席につく。
アイビー「いただきます・・・。」
小さく声に出してから料理を口に運ぶ。
2、3口食べるとゆっくりとフォークを置く。
皿にはまだ料理が残っている。
じっとそれを見つめる。
ゆっくりと立ち上がり、皿を手に取る。
そのままバスルームへと移動する。
おもむろに料理を流し入れ、急いでトイレの水を流す。
アイビー「 (ごめんねラト・・・・。) 」
アイビー「 (食欲ないんだ・・・・。残すとみんなが・・・心配しちゃうから・・・・。) 」
ラトーシャ「ただいま~。」
玄関のドアを開けてラトーシャが帰ってくる。
ディーンはリビングで映画を見ている。
ラトーシャ「ディーン帰ってたんだ?」
ディーン「あ、おかえりラト。」
ラトーシャ「ただいま。」
ディーン「帰りにDVD借りてきたんだ。一緒に見ようかと思って。」
ラトーシャ「そっか。おなかすいてない?すぐご飯にするね。」
ディーン「いいよ。どっか食べに行こうぜ。ラトも疲れてるだろ。」
ラトーシャ「大丈夫だよ?」
ディーン「それよりアイビーのやつ、どうだった?」
ラトーシャ「うん・・・。ひどくなってると思う。」
ディーン「そうか・・・。」
ラトーシャ「たぶん・・・ほとんど食べてないよ。どんどん痩せてきてるし、肌に潤いないし・・・・ずっと眠ってる。」
ディーン「・・・・・。」
ディーン「ごめんなラト。ラトもつらいよな・・・・。」
ラトーシャ「ううん。私はいいの。少しでも・・・役にたてるなら。でもアイビー・・・このままだと・・・。」
ディーン「そうだよな・・・。」
ラトーシャ「お義父さんたちには言ったの?」
ディーン「言えるわけねぇよ・・・。」
ラトーシャ「でも・・・病院に入れることも考えないと・・・・。」
ディーン「そうだけど・・・・あいつ絶対嫌がるだろうし・・・。」
ラトーシャ「そうだよね・・・。」
ディーン「さすがにそれは最終手段かな・・・・。」
ラトーシャ「うん・・・・。」
ディーン「むしろ倒れてくれたほうが、入院させやすいんだけどな。」
ラトーシャ「ディーン・・・。」
ディーン「ホント・・・どうすりゃいいんだか・・・・。俺双子なのに・・・・なにもしてやれない・・・・。」
ラトーシャ「ディーン・・・・。」
ディーン「ダメな兄貴だよな・・・・。こんなに近くにいるのに・・・・俺だけなのに・・・・。」
思わずラトーシャがディーンに抱きつく。
ラトーシャ「そんなことない。ディーンは精一杯やってるよ。」
ディーン「そうかな・・・・。」
ラトーシャ「誰だって無力だよ・・・私だって・・・・。でもどうしようもないんだよ。」
ラトーシャ「アイビーの苦しみはきっと誰にもわからないよ。愛する人を亡くした者じゃないと・・・わからない苦しみだもん。」
ディーン「・・・・。」
ラトーシャ「きっとどんなにつらいか・・・・。私だったら・・・・ディーンに先に死なれちゃったらきっと生きていけない。」
ディーン「俺もだ。ラトがいない人生なんて・・・もう考えられない。」
ラトーシャ「ディーン・・・絶対に、私を置いて先にいかないで・・・・。」
ディーン「ああ。そのときは二人一緒だ。」
ラトーシャ「その頃はきっと・・・たくさんの孫や曾孫に囲まれていたい・・・。」
ディーン「ああ。そうだな。」
翌朝。
アイビーがぼーっと窓の外を眺めている。
マロン「おはよ~。」
階段をあがってマロンが部屋へ入ってくる。
マロン「アイビーちゃん、なに見てるの?」
アイビー「・・・・!」
ようやくマロンの存在に気づいたアイビーが振り向く。
アイビー「マロンちゃん、おはよう。」
マロン「おはよう。早いね。もう起きてたんだ?」
アイビー「うん。いっぱい寝たから。」
マロン「寒くない?10月に入って一気に風が冷たくなったよね。」
アイビー「家から出てないからわからないけど・・・たしかに窓際はちょっと寒いかな?」
マスター「アイビーちゃん薄着だから風邪引くよ~。」
アイビー「部屋の中はあったかいから大丈夫。それよりマロンちゃん、今日仕事は?」
マロン「今日は休みなんだ~。だから遊びに来ちゃった。」
アイビー「そっか・・・。いつもありがとう。」
マロン「外見てたの?」
アイビー「え?」
マロン「今日も曇り空だねぇ。最近ずっと、雨か曇りかばっかりだよねぇ。」
アイビー「そうだね・・・・でも。」
マロン「?」
アイビー「私はこっちのほうが好きかな・・・・。雨も・・・ホントは結構好きなんだ・・・・。」
マロン「・・・・ロミオちゃんのこと、思い出してたの?」
アイビー「・・・・・。」
アイビー「・・・ねぇマロンちゃん。」
マロン「うん?」
アイビー「どうしてかなぁ・・・・。あんなに眠ってるのにね。」
アイビー「夢にも出てきてくれないんだぁ・・・・。相変わらず意地悪だよね・・・・。」
アイビー「困ったねぇ・・・・。」
マロン「・・・・っ。」
マロンは喉の奥がきゅっと苦しくなるのを飲み込んだ。
マロン「ねぇアイビーちゃん。」
アイビー「・・・?」
マロン「たまには出かけない?最近はもうマスコミもいないし。外出ても大丈夫だよ?」
アイビー「う~ん・・・・やめとく。」
マロン「そう・・・?」
アイビー「ごめんね。今日はそういう気分じゃないんだ。」
マロン「そっか。ならしょうがないね。」
アイビー「マロンちゃんでかけてきていいよ?せっかくのお休みでしょう?」
マロン「いいの。僕はアイビーちゃんと遊ぼうと思って来たんだから。」
マロン「DVDいっぱい借りてきたんだ。アイビーちゃんの好きなSFとアクションばっかり。あと僕のオススメのコメディーも何本かw」
アイビー「ホント?嬉しい。」
マロン「一緒に観よっか。」
アイビー「あ~・・・・でもうちパソコンしかモニターないよ?」
マロン「そう思って僕家からプロジェクター持ってきたんだw」
アイビー「すごいねw 私、先にシャワー浴びてきてもいいかな?」
マロン「うん。その間に準備しておくね。車に積んであるから。」
アイビー「うん。楽しみ~。」
マロン「ゆっくりでいいからね。」
アイビー「は~い。」
アイビーがバスルームへと移動する。
マロン「 (アイビーちゃん・・・・ごめんね・・・・。) 」
前日の夜。
マロン「お疲れ~。先に帰るね~。」
メイクルームを出たマロンとジーンがスタジオへと入ってくる。
ギルバート「あ、飲みに行くなら俺も行きたいっす。」
マロン「今日は行かないよ~。また今度ね。」
ギルバート「ちぇっ・・・。お疲れっす!」
ジーン「お疲れ様。」
ジーン「マロンちゃん。」
エレベーターを待っているとジーンが後ろから声をかける。
マロン「なに~?」
ジーン「アイビー、元気ですか?」
マロン「・・・・。」
ジーン「明日も行くんですよね?アイビーのとこ。」
マロン「ジーンくん、アイビーちゃんに電話なんかしてないよね?」
ジーン「・・・してないです。」
ジーン「葬儀のあと、一度も連絡とってないですよ。」
マロン「僕との約束、ちゃんと守ってくれてるんだ?」
ジーン「・・・はい。」
ジーン「母さんが気にしてて・・・アイビーは大丈夫かって。」
マロン「アイビーちゃんなら大丈夫だよ。気丈に振舞ってる。見ていて泣けるくらいにね。」
ジーン「・・・・。」
マロン「だから絶対にアイビーちゃんにはもう連絡しないで。ジーンくんは必要ないから。」
マロン「アイビーちゃんが弱ってるときに・・・ジーンくんが付け入るみたいなことしたら僕・・・・絶対に許さないから・・・・。」
ジーン「・・・・。」
マロン「僕はロミオちゃんがカメラマンになる前から知ってるし、親友だと思ってたんだ。だから・・・そんなことしたらジーンくんのこと、一生許せないから・・・・。」
マロン「ジーンくんのことは仲間だから信頼してるし好きだよ。でも・・・男だから・・・アイビーちゃんのこと好きなのも知ってるから信用できない。」
ジーン「・・・・。」
マロン「僕との約束、これからも守ってよね。」
マロン「今日は先に帰るね。」
ジーン「はい・・・。」
マロンがエレベーターに乗り込む。
マロン「 (ロミオちゃん・・・僕は間違ってないよねぇ・・・・。) 」
マロン「 (ロミオちゃん・・・・話したいよ・・・・。) 」














































































