沈黙

ローガンがブリッジポートを去ってから２ヶ月が過ぎた。
４月に入り、暖かい日々が続いていた。

ディーン「おはよ～。」


ディーンが寝起きの掠れた声で階段を下りてくる。

ラトーシャ「おはようディーン。そろそろ起こしに行こうかと思ってたところ。」

ディーン「お弁当？いつもサンキュー。」

ディーン「あれ・・・？ふたつ？ラト、どっかでかけるのか？」

ラトーシャ「うん。ララのところ。」

ララ「昨日電話したら、体調崩して寝込んでるらしいの。仕事も休んでるんだって。」

ディーン「そうなのか。」

ララ「ララの分のお弁当も作ってみたんだけど・・・食べれるかわからないから、一応おかゆとかも作ってあげようかと思うんだ。」

ディーン「そっか。ローガンがいなくなってから、一人であの家にいるのは寂しいだろうな。」

ラトーシャ「そうなんだよね。家のことも、できれば掃除とかしてあげようかなって思ってる。」

ディーン「そっか。悪いな、ラトにばっかり任せて。」

ラトーシャ「ううん。私は仕事もしてないし暇だもん。たまにはララの様子見に行ってあげないとね。」

ディーン「そうだな。頼むよ。」

ラトーシャ「うん。」

ディーン「・・・ああそれから、あの話。ラトからララにしておいてくれるか？」

ラトーシャ「うん。わかってる。」

ディーン「よろしくな。」

ラトーシャ「うん。」

ラトーシャ「じゃあ先に行くね。ディーン、お弁当自分で包んでね。」

ディーン「了解。いってらっしゃい。」

ラトーシャ「いってきます。」

ディーン「気をつけてな。」

ラトーシャ「は～い。」


ラトーシャが荷物を持ってキッチンを出て行く。

ディーン「　（ローガンいなくなってから、ララはまるで抜け殻だな・・・。なんとかしねぇと・・・。）　」

ラトーシャ「お邪魔しま～す。」


ラトーシャが玄関を入る。
部屋には明かりもなく薄暗い。

ラトーシャがララの部屋に入る。


ラトーシャ「ララ～、大丈夫？」

ララ「ごめんね・・・。今起きようとしてたところよ。」

ラトーシャ「いいよ～ムリしなくて。」

ラトーシャ「体調はどう？熱はあるの？」

ララ「う～ん・・・。昨日計ったら微熱だったんだけど・・・。」

ララ「ここのところ微熱が続いてるの・・・。そのせいで体がだるくて・・・。」

ラトーシャ「顔赤いね。薬は飲んだの？」

ララ「市販のお薬があったからそれを・・・。」

ラトーシャ「ご飯は？食べられそう？」

ララ「食欲ないわ・・・。」

ラトーシャ「そっか。お弁当作ってきたんだけど、無理そうならおかゆ作るよ。」

ララ「ごめんね・・・。」

ラトーシャ「いいよ～気にしなくて。お互い様なんだから！じゃあ勝手にキッチン借りるから横になってて。」

ララ「ええ。ありがとう。」

日が沈み、冷たい空気が街を包む。

ララ「おいしい。」

ラトーシャ「ホント？よかった。」

ララ「さすがラトね。ディーンはいい奥さんをもらったわよね。」

ラトーシャ「ふふっｗ　ありがと。午前中はほとんど食べられなかったからどうしようかと思ったけど、だいぶ元気出てきたね。安心した。」

ララ「掃除や洗濯まで・・・なにからなにまでありがとう。」

ラトーシャ「いいのよ。どうせ暇だったんだから。」

ラトーシャ「ねぇララ。」

ララ「うん？」

ラトーシャ「家探し、みつかった？」

ララ「う～ん・・・ここのところずっと体調くずしてたり仕事も忙しかったりしたから、なかなか不動産屋にいけてないのよ。」

ラトーシャ「そうなんだ？あと３ヶ月だよね・・・ここ。」

ララ「そうね。」

ラトーシャ「ねぇララ、うちに住まない？」

ララ「え・・・？」

ラトーシャ「ディーンとね、話し合ってうちはどうかなってことになったの。」

ラトーシャ「ほら、二階の客間が空いてるでしょう？実家にはこっちから会いに行くことがほとんどだし、泊まるようなお客さんはこないからほとんど使わないんだよね。」

ララ「・・・・。」

ラトーシャ「あの部屋も誰かが使ってくれたほうが助かるし。」

ララ「でも・・・悪いわよ。新婚さんなのに。」

ラトーシャ「そんなの気にしなくていいよ。親友でしょ。」

ララ「そうは言っても・・・どう考えても私、お邪魔虫だわ。」

ラトーシャ「私も仕事辞めて暇だからララいてくれたほうがさ、私も楽しいし。家賃は一応払ってもらうことになるけど、料理とか私がやるからララもラクでしょう？」

ララ「・・・・。」

ラトーシャ「新しい家が見つかるまででもいいんだから。ね？」

ララ「・・・・そうね。」

ラトーシャ「うん。一応考えてみてよ。私もディーンも、そうなったらすごく嬉しいし。」

ララ「・・・・ええ。」

ララ「考えてみる。」

ラトーシャ「うん。ゆっくり考えて決めて。」

ララ「ええ。ラト、ありがとう。」

ラトーシャ「うん。」

数日後。

ディーンとラトーシャは久しぶりに劇場に足を運んでいた。

ディーン「ごめんな。前のカップル席のほうがゆったり見れたよな。」

ラトーシャ「私こっちのほうが好きだから全然いいよ。」

ディーン「ホントに？」

ラトーシャ「うん。だって真ん前だもん。見やすいし。」

ディーン「そっか。」

ラトーシャ「うん。」


ラトーシャが再び前を向き、映画に集中する。

ディーン「　（最近仕事忙しかったし、ラトもララのことがあったから二人でデートも久しぶりだな。ラト、楽しんでくれてるかな？）　」

ディーン「　（もう春だけど・・・結局今年入ってまだ一度もHしてない・・・。誘ってみたいけど・・・また拒否られたら俺だって傷つくし勇気いるんだよな・・・・。）　」

ディーン「　（かといって俺・・・もはやDVD観賞の店、常連になりつつあるんだけど・・・。いいかげん生身がいいぞラト！）　」

映画が終わり、劇場内が明るくなる。
人々が次々と席を立ち、場内が騒がしくなる。

ディーン「映画前にメシ食っといてよかったな。」

ラトーシャ「そうだね。このあとだとこの辺混むかもね。」

ディーン「どうする？まだ時間早いし、たまには飲みにでもいく？」

ラトーシャ「うん。任せるよ。」

ディーン「じゃあブライモアは混みそうだからユージの店でも行くか。」

ラトーシャ「うん。その前にトイレ行きたい。」

ディーン「俺も。じゃあ入り口のとこで待ち合わせな。」

ラトーシャ「了解。」

トイレの個室から出てきたラトーシャが手を洗う。


ラトーシャ「　（映画久しぶりだったな～。ディーン後半寝てたけど。ディーンが寝るのはいつものことかｗ）　」

女性「ラト・・・ちゃん？」