ミランダ「 (あ・・・・ケイタイ忘れた。) 」
ミランダ「すいません。ちょっと戻ってもらってもいいですか?忘れ物しちゃったみたいで。」
運転手「はい、了解しました。」
アパートに着いたミランダが部屋へと入っていく。
ミランダ「ロミオ、まだ部屋に戻ってなかったの?」
ロミオ「ん・・・・。」
ミランダ「早く薬飲んで寝てなさいよ。」
ロミオ「ジュリ・・・。」
ミランダ「 (ジュリ?ジュリってたしか・・・子供の頃の・・・あの女の子・・・・。) 」
ロミオ「綺麗だ・・・・。お前のドレス姿、ずっと見たかったんだ・・・。」
ミランダ「ロミオ?夢でも見て・・・・。」
ミランダ「!!」
ミランダがテーブルの上の薬瓶に気づく。
ミランダ「あんたまさか・・・・これ飲んで・・・・。」
ロミオ「ジュリ・・・・。」
ミランダ「 (もしかして・・・夢じゃなくて幻影・・・?どうしよう・・・・私のせいでロミオが・・・・。) 」
ミランダが慌てて携帯電話を手にとる。
ミランダ「早く・・・・っ。早く出て!」
マリオ『もしもし?』
ミランダ「マリオ、お願い助けて。ロミオが・・・私のせいで・・・・っ。」
ドアが開いてマリオが顔を出す。
マリオ「悪いな。休日に。」
リリィ「ううん。それで・・・。」
リリィ「大丈夫なの?」
マリオ「ああ。いま医者が帰ったところだ。」
リリィ「・・・・。」
マリオ「大丈夫だよ。業界では有名な医師だし腕は確かだ。金は高いが、その分口も堅いのさ。」
リリィ「そう・・・。」
マリオ「情報が漏れたら大変だからな。」
リリィ「そうでしょうね。」
マリオ「入れよ。詳しく話そう。」
リリィ「ええ。」
マリオ「コーヒーでいいか?」
リリィ「ええ。ありがとう。」
マリオ「おう。」
マリオ「それにしてもすごい雨だな。来るの大変だっただろう?」
リリィ「平気よ。私、車買ったの。」
マリオ「そうなのか。お前のことだからいつものバイクかと思ったぞ。」
リリィ「ふふっ。彼女に説得されて売っちゃったのよ。事故ったら危険だからってうるさくて。」
マリオ「そりゃあバイクなんて、お前のイメージとは程遠いしなぁ。」
リリィ「ねぇ。ここにあるのってもしかして・・・。」
マリオ「ああ、そいつが噂のブツさ。」
リリィ「・・・・。」
リリィ「事務所から渡されてたのね。」
マリオ「ああ。」
リリィ「可哀相に・・・。あの子・・・入る事務所を間違えただけで・・・。」
マリオ「さっきの医者曰く、合成麻薬らしい。」
リリィ「合成麻薬・・・・。」
マリオ「最近は見た目がいかにもな粉なんかじゃなく、そういう錠剤が出回ってるんだとさ。」
リリィ「容器を変えればただの風邪薬にしか見えないものね。」
マリオ「ああ。」
マリオ「安心しろ。ミランダは飲んでないそうだ。利口なやつだよ。」
リリィ「きっと事務所のこと怪しんでたのね。」
マリオ「ああ。モデル以外の仕事もやらされてるようだしな。」
リリィ「え?」
マリオ「よくある接待ってやつだよ。」
リリィ「・・・・。」
マリオ「あそこの事務所は有名だ。芸能界のお偉いさんだけじゃなく政界とも通じてるってな。」
リリィ「ミラが話したの?」
マリオ「いや。だが間違いないだろ。」
リリィ「・・・・。」
マリオ「あいつは頭が良い。薬に手を出してなかったことが幸いだな。」
リリィ「そうね・・・。」
マリオ「ロミオのほうは量が少なかったおかげで安静にしていれば大丈夫だそうだ。」
リリィ「そう・・・。」
リリィ「あの事務所・・・なんとかして辞めさせられないかしら・・・。」
マリオ「やめとけ。ヘタに関わらないほうがいい。」
リリィ「でも・・・・。」
ロミオ「ミラは事務所との契約で5年は辞められないことになってる。」
リリィ「それって・・・。」
ロミオ「借金を抱えさせられてるのさ。売り出すのにかかる費用だと。」
リリィ「・・・・。」
ロミオ「よくある手口さ。」
ロミオ「借金を払い終わるまで、薬漬けにして散々働かせてポイさ。」
リリィ「・・・・。」
ロミオ「それまでに売れればなんとか抜け出せるが、キャリーみたいに薬にハマったり売れなかったら・・・ボロボロになるまで働くだけだ。」
リリィ「・・・・。」
ロミオ「いままでそういう人間を何人も見てきた。それに関わって人生狂わされた人間もな。」
リリィ「許せない・・・・。なんてこと・・・・。」
マリオ「お前にはミラの姉代わりをやってほしいんだ。あいつが道を誤らないように。」
リリィ「そんなの・・・いくらだってやってあげるわよ。」
マリオ「悪いな。お前を巻き込んで。」
リリィ「叔父の頼みですもの。」
マリオ「ははっw 義姉さんは元気か?」
リリィ「ええ。父さんが亡くなってもう5年よ。そろそろ一緒に住もうって言ってるんだけど、相変わらず頑固なのよね。」
マリオ「そうか・・・。」
リリィ「この前父さんの古い日記が出てきたのよ。」
マリオ「日記?」
リリィ「マリオ、母さんのこと好きだったのね。」
マリオ「ははっw もう昔の話だよ。」
リリィ「そうよね。奥さん元気?会ってるんでしょ?」
マリオ「いや、子供とは会ってるけどな。あいつは俺に会いたがらないんだ。」
リリィ「そうなの。」
マリオ「お前は幸せになれよリリィ。」
リリィ「あら、私はいまでも十分幸せよ?」
マリオ「そうか。ならいいんだ。・・・そういえばお前、昔モデル事務所やるって言ってたよな。」
リリィ「その夢ならいまでも健在よ。」
マリオ「そうか。がんばれよ。なにか協力できることがあればなんでも頼ってくれ。そしてミラのような子たちを救ってほしい。」
リリィ「ええ。そのつもりよ。」
マリオ「お前は人望も厚いし、大学で経済も勉強してるんだろう?」
リリィ「ええ。大学を出たら本格的に事務所設立に動くつもりなの。」
マリオ「そうか。」
リリィ「まずはバリバリ働いてお金貯めないとね。」
マリオ「お前、学費も自分で出してるんだろ?大丈夫なのか?」
リリィ「大丈夫よ。看板モデル、舐めないで♪」
マリオ「そうだったなw 叔父の立場になるとつい忘れちまうw」
ミランダ「 (ごめんねロミオ・・・。私・・・がんばるから・・・・。そして一日でも早く・・・・あの事務所辞めるから・・・・。) 」
ミランダ「 (それまでは傍で・・・私を支えていて・・・・。) 」
1年後。
自らオーディションを受け映画に出演したミランダは、処女作となったその作品で一躍有名となった。
18歳とは思えないみごとな脱ぎっぷりと迫真の演技が認められたのだ。
この作品を期にミランダは女優への道を歩み始めた。
そして次々と映画界に名を残していくこととなった。
それから3年後。
ミランダ「昼間っから呑むなんて。あなたと会うときはいっつもお酒が一緒ね。」
リリィ「当然でしょ。それにこういう場所じゃないと、大女優とは密会できないものね。」
ミランダ「ふふっ。それもそうね。」
リリィ「こっちに帰ってきたばっかりなんでしょう?」
ミランダ「ええ。今やってる映画の宣伝で世界中飛び回ってるのよ。明後日にはアジアへ行くわ。」
リリィ「その髪色素敵じゃない?映画のために染めたの?」
ミランダ「違うわよ。元々この色なの。ずっと黒くしてただけよ。」
リリィ「そう。仕事、もう次は決まってるの?」
ミランダ「落ち着いたらしばらく休もうかと思ってるの。もうずっと働き詰めだから。」
リリィ「それがいいわ。あなた、21歳の顔してないもの。」
ミランダ「あら失礼ね。人のこと言えないわよ。リリィだってすごく痩せたみたい。」
リリィ「まぁね。いろいろ忙しかったから。」
リリィ「ようやく事務所設立することになったのよ。」
ミランダ「事務所って・・・モデル事務所?」
リリィ「そうよ。覚えてた?」
ミランダ「ええ。でも・・・・本気だなんて思わなかった。」
リリィ「あら、私がモデルやってたのは下積みみたいなものよ。」
ミランダ「でも、まだモデル辞めてないでしょう?」
リリィ「今はね。所属モデルも少ないし、私が稼ぎ頭みたいなものだもの。」
ミランダ「そうでしょうね。BiBiは卒業して今はVERIの看板ですもの。」
ミランダ「おめでとう。夢を叶えるなんてすごいわ。」
リリィ「あなただって叶えてるじゃない。女優になるっていう夢を。」
ミランダ「私のは夢っていうより・・・・天職みたいなものね。」
ミランダ「周りはみんな、生まれ持っての才能だとか言うけど、ホントは違うわ。演技することは私にとって生きる術だったのよ。」
リリィ「たしかに。私もあなたには散々騙されてきたわね。」
ミランダ「そうだったかしら?」
リリィ「出会った頃のあなたは完全に猫被ってたもの。本性を現したのはあの事件があってからよね・・・薬の・・・・。」
ミランダ「ああ、あれね。懐かしいわね。」
リリィ「あの時はホントに大変だったわ。」
ミランダ「だってあなたしょっちゅううちに来るんだもの。ウザくてしょうがなかったわよ。」
リリィ「あら、心配して来た友人に対してそれはないんじゃない?」
ミランダ「母親面して・・・ホントウザくてしょうがなかったw」
リリィ「せめて姉にしてよね。でも・・・あれであなたが本性現したのよね。」
ミランダ「大喧嘩したわよね。雨の中外でw」
リリィ「ホント。ロミオが来てくれなかったらどうなったことやらw」
ミランダ「ふふっ。あんなに人が集まってたのに全然バレなかったわよねw」
リリィ「私が私服だったからね。あなたが売れる前でよかったわよ。」
ミランダ「ホントね。」
ミランダ「そういえば・・・それ私服?髪型も素敵じゃない。短いほうがあなたに合ってる。」
リリィ「今の彼女がファッションにうるさいの。」
ミランダ「前の女とは別れたのね。安心したわ。私あの子嫌いだったもの。」
リリィ「知ってるわよw」
ミランダ「どんな人なの?今の彼女。」
リリィ「大学のときの友人よ。去年同窓会で再会したの。彼女は経済にも強いから、事務所の立ち上げにもとても助けられたわ。私の秘書兼マネージャーをやってもらうつもりなの。」
ミランダ「素敵じゃない。頭いい人、私好きよ。」
リリィ「ふふっw 今度合わせるわね。」
ミランダ「楽しみにしてるわ。」
リリィ「あなたのほうはどうなの?監督と噂になってるみたいだけど。週刊誌に写真撮られてるの、見たわよ?」
ミランダ「勘弁してよ。ジジィに興味ないわ。」
リリィ「そうなの?マリオのこと気に入ってなかった?」
ミランダ「マリオは別よ、素敵だもの。監督とは処女作と今回ので2度目の共演だから、あの写真も話題作りみたいなものよ。」
リリィ「なぁんだ。私週刊誌にまんまと釣られちゃったのね。」
ミランダ「ふふっ。映画界じゃよくある話題作りよ。」
リリィ「そうなの?じゃあ恋人は?」
ミランダ「遊ぶ相手ならたくさんいるわよ?」
リリィ「あら、ロミオが本命じゃないの?」
ミランダ「ロミオは弟みたいなものよ。あなたが思うような関係じゃないわ。」
リリィ「ずっとそういい続けてるけど、本当は一番大事なんでしょう?」
ミランダ「大事?」
リリィ「ええ。私にはわかるわよ。長い付き合いだもの。」
ミランダ「・・・勝手にそう思ってれば?」
リリィ「さっさと結婚しちゃいなさい・・・って言いたいところだけど。大女優さんはそうはいかないわよね。」
ミランダ「・・・・。」
リリィ「そういえば・・・あなたもうすぐ事務所との契約切れるんじゃないの?」
ミランダ「よく覚えてるわね。」
リリィ「もちろんよ。あなたが辞めたら絶対うちの事務所に入ってもらうって決めてたから。」
ミランダ「どうしようかなぁ~。」
リリィ「あら?出会ったときの約束、忘れたの?」
ミランダ「ふふっ。知らなかった?私演技は得意なのよ?」