スタジオにカメラのシャッター音が響き渡る。
マリオ「いいね~。次もうちょっと上目遣いで。」
ドアが開いてリリィが入ってきた。
マロン「あ、おはよ~リリィちゃん。」
リリィ「おはようマロン。撮影長引いてるの?」
マロン「うん。ちょっとだけね。」
リリィ「・・・・誰?」
マロン「ああ、ロミオくん?」
リリィ「ロミオ・・・?」
マロン「ミランダちゃんが連れてきたんだ。弟だって。」
リリィ「あ~、そういえばそんなこと言ってたわね。(弟みたいなやつがいる・・・って。) 」
マロン「リリィちゃん知ってたんだ?そういえばこの前家に泊めてたもんね。」
リリィ「ええ。」
マロン「仲良くなれた?」
リリィ「まぁね。」
マロン「さすがリリィちゃん。」
リリィ「なかなかイケメンじゃない。」
マロン「だよねぇ?まだ14歳なんだって。」
リリィ「へぇ~。」
マロン「さっきケイトリンちゃんのマネージャーにも散々スカウトされてたんだけどね。本人はその気ないみたいだよ。名刺もすぐ捨ててたの、僕見ちゃったw」
リリィ「そうなんだ?」
リリィ「 (14には見えない風貌ね。身長は私よりちょっと低いから・・・162かそのくらいかしら?でも・・・足も大きいし、きっとこれからどんどん伸びるわね。) 」
ロミオは黙ったままじっと一点を見つめている。
それは中央でポーズをとるミランダではなく、カメラを構えるマリオだった。
マリオ「いいねその目!ぞくぞくするよミランダ。」
静かなスタジオにはシャッター音が鳴り響く。
マリオ「よし!今日はもうあがっていいよ。お疲れ。」
ミランダ「お疲れ様でした。」
すかさずロミオが声をかける。
ロミオ「あの・・・。」
マリオ「ん?」
ロミオ「それ、見せてもらってもいいですか?」
マリオ「なんだ?カメラに興味あるのか?」
ロミオ「はい・・・すごくかっこよかったから・・・・。」
マリオ「そうか?ありがとうw」
ロミオ「・・・・。」
マリオ「触ってみるか?」
ロミオ「え?いいんですか?」
マリオ「ああ。壊すなよw」
ロミオ「はいっ!」
カメラを受け取ったロミオが恐る恐る構える。
ロミオ「すげぇ・・・・重い。」
マリオ「ははっw そいつは昔のもんだからな。今のデジカメなんかと違って重いのさ。」
ロミオ「へぇ~・・・・。すごい・・・かっこいいですね!」
マリオ「ははw ありがとう。」
マリオ「なかなかいい構えだ。」
ロミオ「・・・そうですか?」
マリオ「ああ。・・・・カメラに興味があるなら、また遊びにおいで。」
ロミオ「え・・・?いいんですか?」
マリオ「ああ。今度現像するところなんかも見せてあげるよ。」
ロミオ「っ・・・すげぇ見たいです!」
マリオ「そうか?」
ロミオ「はい!」
マリオ「君、働いてるんだっけ?」
ロミオ「はい。朝の新聞配達と・・・昼間は工事現場で。」
マリオ「じゃあ夜は時間あるのか。」
ロミオ「はい。」
マリオ「暇なときに遊びに来るといい。俺も人手が足りないから助手を探してたんだ。」
ロミオ「ほ・・・ホントにいいんですか?」
マリオ「ああ。たいしたバイト代は払えないけどなw」
ロミオ「バイト代なんていらないです。」
マリオ「そうか。まぁ・・・ここはモデル事務所の人間も出入りするから、君ならすぐいいバイトが見つかるさ。」
マリオ「そうか?いい金になると思うけどな~。」
数週間後。
ロミオ「・・・よっと。」
スタジオのドアが開いてリリィが入ってくる。
リリィ「おはよ~。」
ロミオ「リリィ、おはよ。」
リリィ「あんたまた来てたんだ?なに?片付け?」
ロミオ「うん。」
リリィ「あれ?マリオは?」
ロミオ「いま買出し行ってる。」
リリィ「そっか。」
ロミオ「・・・・。」
リリィ「なによ。私に見惚れてるの?」
ロミオ「はぁ?んなわけないだろ。」
リリィ「あっそ。」
ロミオ「前から思ってたんだけどさ。」
リリィ「?」
ロミオ「リリィってホントファッションセンスないよな。なんだよそのキャラクター。妖怪か?」
リリィ「うるさいわね。こういうのきもかわいいっていうのよ。」
ロミオ「お前・・・ホントにモデルかよ?」
リリィ「あんた人のこと言えるわけ??」
ロミオ「なんでだよ?」
リリィ「なにそのTシャツ。」
ロミオ「かっこいいだろ。マリオさんにもらったんだ。」
リリィ「それ日本語でしょ?意味わかってんの?(たしかあれオタクとかが着るやつよね?) 」
ロミオ「日本語なんかわかるわけないだろ。クールジャパンだよ。」
リリィ「・・・・わかってないならいいや。」
ロミオ「なんだよ。リリィ読めるのかよ?教えろよ。」
リリィ「いや、いい。」
ロミオ「はは~ん、どうせ読めないんだろ。」
リリィ「・・・・。」
リリィ「ミラは?」
ロミオ「今日はほかの仕事だって。」
リリィ「そうなの?あんた一人で来たの?バイトは?」
ロミオ「工事現場は雨で休みだから朝の新聞配達だけ。」
リリィ「あんた、ちゃんと寝てる?ご飯食べてるの?」
ロミオ「うん。飯はいっぱい食ってるぞ。時々マリオさんが奢ってくれるし。」
リリィ「そう・・・。若いからってあんまりがんばりすぎるんじゃないわよ。」
ロミオ「なんだよ急にばばぁみたいなこと言って。」
リリィ「ミラは?あの子細いけど食欲ある?」
ロミオ「うん。食事制限はしてるみたいだけど、ちゃんと食べてるぞ。」
リリィ「そう。ならいいの。」
リリィ「じゃあね。」
ロミオ「おう。」
ロミオ「・・・・?」
マネージャー「またそんな格好して。」
ミランダ「・・・・。」
マネージャー「この前買ったワンピースは?」
ミランダ「クリーニングに出してる。」
マネージャー「しょうがないわね。途中で買って行きましょう。・・・・まったく、時間ないっていうのに。」
ミランダ「どうせ着替えるんでしょう?」
マネージャー「それはそうだけど。ホテルハルトンにそんな格好でいけるわけないでしょう?」
ミランダ「今日はどの親父?ハルトンってことは政界?」
マネージャー「シッ。声が大きいわよ。」
ミランダ「・・・・・。」
ミランダが小さくため息をつく。
マネージャー「すいません、この先のブティックで止めてください。」
運転手「かしこまりました。」
マネージャー「ミランダ。」
ミランダ「なに?」
マネージャー「あなたちゃんと寝てないでしょう?肌が荒れてるわよ。」
ミランダ「・・・ちょっと眠れなかっただけよ。」
マネージャー「モデルにとって睡眠がどんなに大事か教えたでしょう?」
ミランダ「・・・・・。」
マネージャー「・・・・まったく。」
バッグから小さな薬瓶を出しミランダにそっと握らせる。
ミランダ「・・・これなに?」
マネージャー「薬よ。」
ミランダ「睡眠薬?」
マネージャー「違うけど、もっといいものよ。精神安定剤みたいなものかしら。」
ミランダ「・・・・。」
マネージャー「また欲しくなったらいいなさい。」
深夜。
帰宅したミランダがアパートの玄関を開け中へと入る。
古い壁紙からは少しカビ臭い匂いがする。
室内にあるのはロミオが拾い集めてきたソファーにテーブル。
テレビも型が古く、ボタンはひとつ外れている。
ミランダにとっては心地良いとは言いがたい部屋だ。
それでも一番落ち着ける場所だった。
ミランダ「ロミオ、帰ってる?」
ドアを開けてロミオの寝室に入る。
ロミオは眠っているようだ。
小さく寝息が聞こえる。
ミランダ「・・・・。」
ミランダが静かに部屋を後にする。
すぐ隣の自分の寝室へと入る。
ロミオの部屋より少し狭いこの部屋はミランダ自身が選んだ。
小さい頃に両親と暮らしていた自らの子供部屋と、少し似ている気がしたからだ。
部屋に入ると小さくため息をもらす。
ポケットから薬瓶を取り出し、中身を出してみる。
白い錠剤は普通の風邪薬のようにも見えた。
ミランダ「 (精神安定剤みたいなものって言ってたけど・・・・あの事務所だもの。信用できないわね。) 」
服を脱ぎ捨て下着姿になると、そのままベッドへともぐりこむ。
ミランダ「 (疲れた・・・・。あんなもの飲まなくても今ならぐっすり眠れそう。) 」
しばらくするとミランダの寝息が聞こえてくる。
数日後。
外はどしゃぶりの雨が降っている。
ミランダの寝室のドアが開く。
ミランダ「おはよ~。」
ミランダ「ロミオってばまたそんなところで寝て。風邪ひくわよ?」
ロミオ「ん・・・・。」
ロミオがゆっくりとソファーから起き上がる。
ミランダ「新聞配達から帰ったらすぐそこで寝ちゃうんだから。その癖直したほうがいいわよ?」
ロミオ「今日早起きだな。」
ミランダ「うん。あんたは休み?」
ロミオ「雨だしな。」
ミランダ「あんた・・・顔赤いわよ?」
ロミオ「え?」
ミランダ「雨濡れた?」
ロミオ「ああ・・・どしゃぶりだったし・・・。」
ミランダ「カッパ着るんじゃなかったの?」
ロミオ「着てたけど・・・寒かったな。」
ミランダ「風邪引いたんじゃない?」
ロミオ「そうなのかな?なんか身体だるい・・・・。」
ミランダ「やっぱり。帰ったらすぐ身体あたためないから~。」
ロミオ「うん・・・・。」
ミランダ「大丈夫?私でかけちゃうけど。」
ロミオ「寝てれば平気だろ。」
ミランダ「スタジオは?今日は行かないの?」
ロミオ「うつしても悪いし・・・やめとく。」
ミランダ「そう。私の部屋に薬箱あるから。ちゃんと薬飲んで寝るのよ?」
ロミオ「おう。」
ミランダ「じゃあね。行って来ます。」
ロミオ「いってらっしゃい。」
玄関のドアを開けてミランダが出て行く。
ロミオ「はぁ・・・・。(身体重いな・・・・。) 」
ゆっくりとソファーから立ち上がる。
ミランダの寝室へと入る。
お互いに鍵はかけていない。
ロミオ「 (薬箱・・・ってどこにあるんだ?そもそもこの家にそんなもんあったのか?) 」
ロミオがふとサイドテーブルの上の薬瓶に気づく。
ロミオ「 (ん?薬ってこれか?そういえばあいつも2,3日前に風邪ひいてたっけ。) 」