ミランダ「愛してるなんて、一度も言ったことなかったわ。」
ミランダ「そんな風になんて思ったことなかったから。・・・・あの人が死ぬまでは。」
ミランダ「でも気づいたのよ。私はロミオを男として愛してた。ずっと・・・ロミオだけを。・・・・そして自分の気持ちに気づいたときに・・・芽生えたこの気持ちが嫉妬だとわかった。」
マスター「・・・・。」
ミランダ「正直、子供のことなんて・・・・どうでもよかった。私が死ぬか、子供が死ぬか、・・・・どちらかひとつしかない。私が生き延びたとしても、結局私は独り・・・。」
ミランダ「それなら子供をあの子にって・・・・。」
マスター「・・・・。」
ミランダ「でもね・・・・、日に日に大きくなるおなかの子の成長を感じて・・・・だんだん惜しくなってきたの・・・・。これが母性ってものなのかしらね・・・・。信じられる?私が母親になるだなんて。」
マスター「・・・・。」
ミランダ「最近思うの。・・・・この子はどんな顔をしていて、どんな風に育つのかしら・・・・ロミオに似ているかしら、って。・・・・ロミオのいないこの世界に、・・・私の居場所はないと思っていたのに・・・・この子がいるなら、もう少し世界は明るいんじゃないかって・・・・。」
ミランダ「・・・・教えて、マスター。」
ミランダ「私の命はあとどのくらい?」
マロン「最近疲れた顔してるけど、大丈夫?」
アイビー「え?・・・そう?」
マロン「うん。悩みでもあるの?」
アイビー「なにもないよ。仕事がちょっと忙しくなってきたからかな。」
マロン「ホントに~?アイビーちゃん、溜め込んじゃうタイプだから・・・・。」
アイビー「心配してくれてるんだね。ありがとう。でもホントに大丈夫だから。」
マロン「そっか・・・・ならいいけど。」
アイビー「心配かけてごめんね。」
マロン「なにかあったらいつでも相談にのるから、遠慮しないで言ってね。」
アイビー「うん。ありがとう。」
マスター「全く、ホントにおせっかいなおかまね。」
マロン「心配するのは当然でしょ~。友達なんだから。」
マスター「人生はいろいろあるものなのよ。悩みなんて人それぞれ。」
アイビー「マスターにも、悩みとかあるの?」
マスター「もちろんあるわよ。主にこの店の経営についてだけれど・・・・一番の問題は後継者についてね。」
マロン「この店ってマスターが初代なんだよね?」
マスター「ブリッジポートではね。伯父がサンセットバレーで1号店をやっていたけど・・・亡くなって閉店してしまったの。」
マスター「私は伯父に育てられたから、いろいろあってブリッジポートで店をやることになって、伯父の店の名前を引き継いだのよ。」
マロン「マスターの話、聞きたいな。」
アイビー「私も興味ある。ご両親はどうしたの?聞いてもいい?」
マスター「別に構わないわよ。・・・両親は、小さい頃になくなったの。伯父は母親の兄なんだけれど、私と同じく同性愛者でね、結婚もしてなかったし子供もいなかったから、小さい私を引き取って育ててくれたのよ。」
アイビー「引き取られたのは、いくつくらいのときだったの?」
マスター「3歳くらいだったわね。少しだけれど、母親の温もりや、肩車をしてくれた父親の大きな背中を覚えているわ。」
アイビー「・・・寂しくはなかった?」
マスター「時々夜鳴きをして伯父を困らせてたみたいだから、やっぱり寂しかったのかもしれないわね~。特に母親がいなかったから。」
マロン「マスターは、元々ダンサーだったんだよね?」
マスター「そうよ~、小さい頃バレエをやっていたの。」
マスター「高校を卒業して、ブリッジポートで本格的にダンスを勉強して・・・プロになれたのはいいけど、足を怪我した後遺症が残って、もうダンスは踊れなくなってしまったのよね。」
マロン「ダンサーからどうしてバーの経営者になったの?」
マスター「私が怪我をしたのと同じ時期に伯父が亡くなって、サンセットバレーのお店の経営を引き継ぐかどうか迷っていたの。そのときに周りの仲間の後押しや事務所の社長の援助があってね。私がここでがんばっていられるのもあのときの皆のおかげなのよ。」
マロン「やっぱり人間大事なのは友だよね~。」
アイビー「そうだね~。」
マロン「アイビーちゃん、ジーンくんとはどうなの?」
アイビー「え?・・・どうしたの?急に。」
マロン「僕もいろいろ考えたんだけど、やっぱりアイビーちゃんにも支えてくれる男性が必要なときがくると思うし・・・。」
アイビー「ジーンとはないよ。マロンちゃんが考えてるようなことは。・・・私にとって、ジーンはずっと親友だから。」
マロン「アイビーちゃん・・・、僕や周りに遠慮することないんだよ。」
アイビー「遠慮とかじゃないんだ、ホントに。むしろ、この距離感が一番いい気がする。」
マロン「・・・本当に?」
アイビー「うん。特別だからこそ、この距離感を大事にしたい・・・のかも。・・・わかるかな?」
マロン「うん。なんかわかる。そういう人、いるよね。」
アイビー「うん。ジーンには幸せになって欲しいって、すごく思うんだ。」
マロン「そっかぁ。」
アイビー「うん。」
ジェニファー「ご飯ちゃんと食べてる?」
ジーン「ちゃんと食べてるから安心して。」
ジェニファー「そう。ならいいけど。」
ジーン「ホント母さんは心配性だな。」
ジェニファー「心配するわよ~。いつまでたってもジーンは私にとってかわいい息子なんだから。」
ジーン「かわいいって年じゃないけどねw」
ジェニファー「そんなことないわよ?」
ジーン「はいはいw」
ジェニファー「仕事のほうはどうなの?」
ジーン「うん。がんばってるよ。色々大変なこともあるけどね。」
ジェニファー「デザイナーになるのがあなたの夢だったものね。ジーンはすごいわ。」
ジーン「まだ叶えてはないけどね。実はオファーがあったやつ、全部断ったんだ。」
ジェニファー「あら、そうなの?」
ジーン「うん。やっぱり自分のブランドを持つのが俺の夢だからさ・・・・今度、展示会を開こうと思ってるんだ。」
ジェニファー「そうなの?とっても素敵ね。」
ジーン「うん。自分のブランドを持つ為にも、やっぱりお金が必要になってくるだろ。名前を売る為もあるけど、支援者を募るためにもね。」
ジェニファー「色々大変ね・・・。」
ジーン「まぁね。でも、一歩ずつだけど夢に近づいてる気はするよ。」
ジェニファー「そうね。」
ジェニファー「こんな時に傍であなたを支えてくれる人がいてくれたら・・・母さんは安心できるんだけど・・・。」
ジーン「母さん・・・・。」
ジェニファー「アイビーちゃんみたいな子だったら・・・。」
ジーン「母さん、アイビーのことはもう言わないでよ。それに俺は今は仕事に集中したいし、夢が叶うまではそういうのはたぶんムリだから・・・。」
ジェニファー「わかってるけど・・・・。心配ぐらいさせてちょうだい。」
ジーン「・・・・ごめん。でも俺は母さんが早く元気になって俺のこと支えてほしいと思ってるよ。」
ジェニファー「そうね・・・。」
ジーン「クリスマスには一時帰宅できるように、一緒にがんばろう。」
ジェニファー「・・・ええ。母さん、苺の乗ったケーキが食べたいわ。」
ジーン「ははっw ちゃんと買ってくるよ。」