リリィ「なんだかんだ言って、あの子はうちの事務所には入らなかったのよ。よっぽど人を信用できない性質なのね。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「1年くらい休んだあとだったかしら。結局自分で個人事務所を設立した。自分だけのためにね。それで私に副社長を頼んだの。さすがに管理する人間が必要だから。」
アイビー「なるほど・・・。」
リリィ「最初はマネージャーもつけていたけど、そのうちそれさえも必要ないといいだしたから・・・大きな仕事には私が、あとは時々だけどアンナがやってくれてるわね。ただでさえうちはマネージャーが足りないっていうのにね。」
リリィ「あなたくらいの売れっ子なら本当は一人や二人はちゃんとマネージャーがいるはずなのよ。いつも一人で行かせて悪いと思ってるの。」
アイビー「私なら大丈夫です。もう慣れましたし。」
リリィ「うちのモデルたちはこうやって鍛えられていくのよねw」
アイビー「ふふっw」
リリィ「ミラは人一倍自分以外の人間を信用しない性格だから、きっと私のことも全部は信じてないかもしれないって時々思うのよ。」
アイビー「そんなこと・・・。」
リリィ「それでもお金の管理や仕事のことを任せてくれてる分、少しは信用してもらえてるのかしらね。」
アイビー「きっとそうです・・・。誰のこともなんて・・・・悲しすぎます。」
リリィ「あなたとミラはまるでコインの裏と表みたいね。」
アイビー「え?」
リリィ「お互いに全く違った環境で育って、違う世界を見てきた。なのに同じ人を愛し、同じ世界に生きてる。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「人の人生って皮肉なもんよね。」
リリィ「辛いと思うなら早めに手を引きなさい。それがあなたにとっても一番よ。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「それでもあの子に向き合うつもりなら、なんでも協力するわ。あの子と子供の為なら、私はなんでもするつもりだから。」
アイビー「はい・・・。」
リリィ「あの子は野良猫みたいな人間だから、期待しないでお互いに一番いい距離感をみつけなさい。私から言えることはそれだけよ。」
アイビー「距離感・・・。」
リリィ「そのうち帰ってくるわよ。ああ見えて寂しがりだから。」
アイビー「そうですか・・・。」
アイビー「いえ・・・。すいません夜分遅くに。・・・・・はい、じゃあ・・・。」
アイビーが電話を切り見つめる。
アイビー「 (ミランダさん、まだ帰ってなかった・・・・。) 」
アイビー「・・・・。」
翌日。
アイビーはアルコール飲料のCM発表会に出席していた。
記者の囲み取材で記者からの質問に対応するアイビー。
記者A「久しぶりのCM撮影だったと思いますが、撮影現場ではいかがでしたか?」
アイビー「今回はじめてお会いする監督やスタッフさんばかりだったので、最初はすごく緊張してたんですけど・・・監督がとっても面白い方で、すごくリラックスして撮影できました。とても楽しかったです。機会があれば是非またお仕事ご一緒させていただきたいです。」
記者B「アルコール飲料のCMでしたが、アイビーさんは普段からよくお酒は呑まれるんですか?」
アイビー「そんなにたくさん呑めるわけではないので、嗜む程度ですね。」
記者B「最近までお休みしている期間がありましたが、その間はお酒は呑まれていましたか?なにをして過ごして・・・。」
スタッフ「プライベートな質問は遠慮してください!」
アイビー「お休みをいただいている間は・・・やっぱりちょっと食欲もあまりなくて、お酒は全然でした。でも、そのときは毎日家族やお友達が一緒にいてくれて・・・すごく助けられました。」
アイビー「私がいまこうしてみなさんの前に立っていられるのも、家族や友達の支えがあったおかげです。その恩返しのためにも、これからもっともっとお仕事をがんばるつもりです。みなさんよろしくお願いします。」
記者C「とっても素敵なスピーチですね!」
アイビー「ありがとうございます。」
記者C「今日のドレスもとっても素敵です。今回の商品に合わせて造られたんですか?」
アイビー「いいえ。このドレスは仕事仲間でお友達のデザイナーさんがプレゼントしてくれたんです。」
記者C「ブランド物ではないんですか?」
アイビー「違いますよ!」
アイビー「彼はいまはBiBiのスタイリストとしてがんばっていますが、夢はデザイナーになることなんです。昔からの知り合いなので私はずっと応援してきましたが、その夢ももうすぐ叶いそうなんです。」
アイビー「きっとこれからどんどん活躍してくれると思います。みなさんも是非彼のことを応援してくださいね!」
携帯電話の着信音が静かな部屋に鳴り響く。
ジーン「ん・・・・。」
ジーン「 (こんな時間に誰だよ・・・・。) 」
ジーン「ん?ギル・・・?」
ジーン「もしもし。」
ギルバート『あ!やっと出た!』
ジーン「ギルがこんな時間に電話するなんて、スタジオでなにかあった?」
ギルバート『なにかあったじゃないですよ!もうさっきから電話なりっぱなしで大変なんすよ~!』
ジーン「え?」
ギルバート『TV見てないんですか?アイビーちゃんのCM発表会のやつですよ。』
ジーン「アイビーの?」
ギルバート『朝のニュース番組で紹介されてたんですけど、ジーンさんのドレスのこと話してたんですよ。それでBiBiのスタイリストっていうんでスタジオにいろんな人から電話がかかってきちゃって~。もうめんどくさいんでジーンさんの電話番号教えちゃっていいっすか?』
ジーン「え・・ちょ・・・・。」
アイビー「おはようございま~す。」
マロン「すごいね!それで何社から連絡来たの?」
ジーン「いや、まだ全部聞いてないからはっきりとは・・・。」
マロン「そうなんだ?これからしっかり厳選しなきゃだね!」
アイビー「おはよう二人とも。」
ジーン「おはよう。」
マロン「おはようアイビーちゃん。今朝の『ハッキリ!』見たよ~。」
アイビー「ハッキリ?あ~、CMの?そういえば記者の人来てたっけ。」
マロン「『ハッキリ!』でね、囲み取材の様子流してたんだけど、アイビーちゃんジーンくんのこと話してたでしょう?」
アイビー「ああ、うん。ドレスのこと聞かれたから。」
マロン「それ見てたアパレル関係者からBiBiの編集部とかこのスタジオにたくさん問い合わせの電話があったんだって!」
アイビー「え?そうなの?もしかして迷惑かけたんじゃ・・・。」
マロン「迷惑なわけないじゃない!まぁギルは大変だったみたいだけどねw」
ジーン「全部はまだ話聞けてないんだけどね。何件か、有名なブランドの会社から他の作品も見せて欲しいって話が来てたりするんだ。」
アイビー「そうなの??」
ジーン「ああ。アイビーのおかげで、いろんな人に俺の服を見てもらえる機会ができた。アイビー、ありがとうな。」
アイビー「そんなのジーンの実力だよ。私はいろんな人に見てもらいたかっただけだもん。連絡がきたってことは、ジーンの実力が認められたってことじゃない。すごいよジーン。」
マロン「ホントだよね。」
ジーン「いや、まだまだこれからだけどな。」
アイビー「そうだ!今日ふたりともこの後空いてる?お祝いにみんなでマスターのお店でも行って呑まない?」
ジーン「お祝いって・・・まだなにも決まってないぞ?」
アイビー「前祝いだよ!せっかくなんだし!それに私今日呑みたい気分なの。」
マロン「ごめん。今日は僕ちょっとムリだぁ~。」
アイビー「え~?そうなの?」
マロン「うん。お友達のバースデーパーティーにお呼ばれしてるんだぁ。」
アイビー「そっかぁ~。それじゃあしょうがないね。」
ジーン「お祝いはちゃんと決まった後にしようか。」
アイビー「そうだね・・・。」
マロン「どうせなら二人で行ってきたら?」
アイビー「え?」
マロン「アイビーちゃん呑みたいんでしょう?それにアイビーちゃんのおかげでジーンくんのデザイナーとしての仕事もうまくいきそうなんだから。二人で行ってきなよ。」
アイビー「でも・・・。」
マロン「ジーンくん車あるんだし、ちゃんとアイビーちゃんのこと送ってくれるよね?」
ジーン「うん。もちろん・・・。」
マロン「お祝いは今度ギルも僕も一緒にってことで、今日は二人で行っておいで。」
ジーン「じゃあ、そうするか。」
アイビー「でもジーン、連絡あったところとは・・・。」
ジーン「連絡先は聞いてあるから大丈夫。ゆっくり話し聞いて決めたいしさ。」
アイビー「・・・・ジーンがそういうなら・・・。」
ジーン「じゃあ終わるの待ってる。」
アイビー「うん。」
時間はすでに12時を回っている。
人の少ない店内。
ジーン「結局ここになっちまったな。」
アイビー「そうだねw まさかあのマスターが旅行に行くなんて・・・。」
ジーン「マスターにもそういう時間は必要だよなw」
アイビー「たしかに。」
ジーン「でも呑みたいならバーとか行ってもよかったんだぞ?」
アイビー「いいの。たまにはガッツリ食べたいじゃない?」
ジーン「アイビー、ストレスたまってる?」
アイビー「ストレスかぁ~。そうなのかもしれない。」
ジーン「俺でよければ話聞くけど。」
アイビー「う~ん、なにかあるってわけじゃないんだけど・・・日々の蓄積?ってカンジかなぁ。」
ジーン「なるほど。」
アイビー「うん。」
ジーン「アイビーってさ。」
アイビー「うん?」
ジーン「あんまり愚痴ったりしないだろ。その分内に溜め込むタイプっていうか。」
アイビー「そうかな?自分ではそうは思ってないけど・・・。」
ジーン「そうだよ。秘密主義ってわけでもないんだけど、なにかあっても人に相談しなかったりするだろ。」
アイビー「うん・・・。」
ジーン「そういうところがさ。心配だったりするんだよな。」
アイビー「そうなんだ?逆に心配かけちゃってるんだね。ごめんw」
ジーン「いや、別にいいんだけど。勝手に心配してるだけだし。」
アイビー「でもたしかに、そういうの鋭い人にはバレてたりしたなぁ。ジーンもそうだけど、ローガンとか。」
ジーン「あんまりさ、溜め込まないようにな。」
アイビー「そうだね。気をつけます。」
ジーン「呑みたいときとか、どっか連れ出してほしいときは、行ってくれれば全然つきあうからさ。友達ってそういうときのために存在してるんだからな。」
アイビー「そっか・・・。」
ジーン「アイビーだって、友達が困ってるときはただ傍にいたり、一緒にバカやったり、そういうことするだろ。だからもっと周りに頼れよ。言わなくたって伝わるんだから。」
アイビー「うん。そうだよね。」
ジーン「俺さ。ロレックは結局ダメだったんだ。」
アイビー「え?そうだったの?」
ジーン「ああ。それでちょっと落ち込んでたんだよな最近。」
アイビー「全然知らなかった。」
ジーン「でもアイビーのおかげでいろんなところから問い合わせきただろ。」
アイビー「うん。」
ジーン「なんかちょっとだけ自信が湧いてきたんだ。」
アイビー「そうだよ、もっと自信持っていいよジーンは。」
ジーン「いや、ロレックの社長には結構厳しいこと言われたんだよ。」
アイビー「・・・そうなんだ?」
ジーン「まぁ、言われたことは確かにその通りなんだけど。それに納得した自分自身にも凹んだっていうか。」
アイビー「そっかぁ。」
ジーン「でもさ、やっぱり落ち込んでばっかりじゃいられないし、なにがダメなのかもっと自分自身を磨いて前に進まなきゃって思ってたところだったんだよ。」
アイビー「ジーンはえらいね。」
ジーン「なにが?」
アイビー「そういうの、周りになかなか話せることじゃないよ。プライドもあるだろうし。私だったら悔しいから周りに相談できないもん。」
ジーン「いや、アイビーのおかげでちょっと吹っ切れたのもあるよ。凹んでた自分に。」
ジーン「それに・・・まだ迷ってるんだ。」
アイビー「なにを?」
ジーン「すでにオファーくれてるところもあるんだけどさ。俺のやりたいことって、自分のブランドを持つことなんだよ。」
アイビー「うん。」
ジーン「でもオファーくれてるところってやっぱり、契約して人の下で働くことを希望してるんだよな。そうなるとさ、アイデアは出せるかもしれないけど指示された服を作るだけで、自分の作りたいものじゃなくなっていくんじゃないかっていう不安もあって。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「そりゃあ経験積むには大事なことだけど、そんなシステムに慣れていっていつか夢を見失うんじゃないかって思ったりさ。」
ジーン「最初から自分のやりたいことだけできるわけないんだろうけどさ。理想と現実がちょっとづつ見えてきて不安になったりするんだよな。」
アイビー「ジーンって、ホントまじめだよね。堅実っていうか。」
ジーン「そうかな?」
アイビー「ジーンなら大丈夫だよ。自分にまっすぐな人だもん。今までだって、自分の足で切り開いてきたじゃない。」
ジーン「・・・・。」
アイビー「大丈夫。ジーンなら。」
ジーン「アイビーって不思議だよな。」
アイビー「ん?なにが?」
ジーン「アイビーに言われると大丈夫な気がしてきた。」
アイビー「だって絶対そうなんだもんw」
ジーン「ビール呑む?」
アイビー「呑まないw 大丈夫!」
ジーン「そっかw」
アイビー「おなかいっぱい~。」
ジーン「そろそろ出るか。」
アイビー「そうだね。」
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