目覚めたアランがベッドから起き上がる。
アラン「起きてたのか。」
ジャスミン「おはよう。パンケーキあるわよ~。」
アラン「いや、俺はいい。」
ジャスミン「あっそ。」
アラン「用意ができたら送っていく。」
ジャスミン「は~い。」
アランがバスルームへ入っていく。
食べ終えたミカエルが椅子から降りる。
ジャスミン「私やるからいいわよ。」
ジャスミンがミカエルから皿を受け取り手早く洗いはじめた。
ジャスミン「送ってくれてありがと。」
アラン「いや。朝飯ありがとな。」
ジャスミン「別にいいわよ。私もおなか空いてたし。」
アラン「じゃあまた今夜よろしく。」
ジャスミン「はーい。またね。」
アラン「行くぞ。」
二人を乗せた車は街へと向かった。
二人がはじめて出逢った公園。
ミカエルが楽しそうにブランコを漕いでいる。
広場にはキィキィとブランコが軋む音が響いている。
アラン「おい。あんまり勢いつけすぎんなよ。」
アランの言葉にミカエルが大きく頷く。
午後。
食事を終えた二人は街中のプールにやってきていた。
滑り台を降りるミカエルをプールサイドのベンチからアランが見守っている。
あっという間に日が暮れ、空はオレンジ色に包まれている。
アラン「わかってるな?ちゃんと寝るまでそばにいてやれよ。」
ジャスミン「わかってるって♪なんなら子守歌も歌ってあげるわよ。」
アラン「そういうのはいい。」
ジャスミン「そう?」
アラン「・・・なんだか今日は機嫌よさそうだな。」
ジャスミン「いつも通りよ~。」
アラン「怪しいな。なにか企んでないか?」
ジャスミン「や~ね。企むようなことあるわけないでしょ。」
アラン「・・・それもそうか。」
アラン「じゃあ行ってくる。」
ジャスミン「いってらっしゃーい。」
アランの車の音が遠ざかるのを聞いてジャスミンがミカエルに声をかける。
ジャスミン「ミカエル、お風呂入っておいで。」
ミカエル「・・・・。」
ジャスミン「上がったらすぐご飯にするわよ。あ、パジャマには着替えないでね。服は私が用意しといてあげるから。」
ミカエル「 ? 」
アランのバー。
廊下には楽し気な笑い声が聞こえてくる。
ポーター「なぁアラン。お前も経験あるよなぁ?」
アラン「まぁ一応男なので。」
ポーター「ほら~。言っただろ~。」
ダーリン「え~。でも全員ってわけじゃないんでしょ~?」
ポーター「そりゃあ男が全員そうってわけじゃないけどね~。」
アラン「いらっしゃ・・・。」
言いかけて顔をあげると先ほど家に残してきた二人の姿が目に入る。
アラン「おま・・・。」
アラン「っ・・・。(こいつ・・・。)」
怒鳴るわけにもいかずに言葉を飲み込む。
アラン「なにしに来たんですか。」
静かに低い声で言う。
ジャスミン「社会科見学よ~。」
アラン「子供の来る場所じゃないでしょう。」
ジャスミン「いいじゃないの。ミカエルだってお兄さんの働きっぷりをみたいわよねぇ?」
ミカエルは黙ったまま椅子に座る。
アラン「・・・アルコールは出しませんよ。」
ジャスミン「わかってるわよ~。」
ポーター「どうしたアラン。知り合いか?」
アラン「・・・親戚の子です。彼女はそのシッターです。」
ミカエルはキラキラした瞳でアランがカクテルを作るのを見つめている。
ポーター「へぇ~。(アランにそっくりだな。シルバー家って美形揃いなのか。)」
ダーリンとオーナーはジロジロとミカエルを見ている。
ジャスミン「アランのお仕事はね、バーテンダーっていうの。お店にくるお客さんにお酒を作って、話し相手になってあげる仕事なのよ。」
ミカエル「・・・・。」
アラン「いいですよ、いちいち説明しなくて。」
ジャスミン「あら、社会科見学ですもの。ちゃんとどういう仕事か説明しなきゃ、わからないわよねぇ。」
アラン「(やりずらくてしょうがねーな・・・・。)」
アラン「あのさ。」
ジャスミン「なぁに?」
ジャスミン「酒飲んでいいから、ここじゃなくて奥のソファー席に移動してもらえるか?」
ジャスミン「もちろんいいわよ。」
アラン「8時になったら帰れよ。」
ジャスミン「了解♪」
ジャスミン「ミカエル、あっちの席に移りましょ。」
ジャスミンがミカエルを連れて席を立つ。
その後もカウンター前にやってくる客たちにアランが手際よくカクテルを作りながら談笑をする。
ミカエルは遠くからじっとその姿を見つめている。
ミカエル「・・・・。」
ジャスミン「アラン、かっこいいでしょ?」
ジャスミンの問いにゆっくりと頷く。
ジャスミン「いつもは口悪いただのイケメンなのにね。こうやってカウンターでお酒作ってると、ホント品があるのよね~。」
アラン「いらっしゃい。」
新たな客が入店する。
ポーター「あ・・・。」
入店した客の姿をみてオーナーが思わず声を漏らす。
ダーリン「彼ってたしかアランの・・・。」
ポーター「・・・だよな?」
マッテオがソファー席に座るミカエルに気付き立ち止まる。
すぐさま何かを悟ったようにミカエルに向かってウインクする。
ミカエルも小さく頷く。
アラン「ご注文は?」
マッテオ「前回最後に飲んだお酒・・・青色の。」
アラン「かしこまりました。」
ほとんどの客の飲んだものは覚えている。
即座にカクテルを作り始める。
ポーター「アランってさ、男と付き合ったことある?」
ダーリン「私もそれ聞きたかった。」
アラン「ないですよ。二人とも変なこと言わないでください。」
ポーター「あ、そうなんだ?ごめんごめんw俺はまたてっきり・・・。」
ダーリン「も、も~オーナーったら。そんなわけないわよねぇ。」
アランがため息をつく。
アラン「(てかなんでよりによって全員集合してんだよ。なんなんだこのカオスな空間は・・・。)」
アランが深くため息をつく。
ポーター「あ、ごめん。今の質問で怒っちゃった?」
アラン「いえ・・・。」
賑わう店内。
客たちはそれぞれに会話が弾み、アランは少し落ち着いた時間帯だった。
ふと見るとソファー席で眠るミカエルが目に入る。
アラン「・・・・。」
アランがカウンターから出て奥のソファー席へと向かう。
アラン「タクシー呼んだから、下まで送る。」
ジャスミン「うん。」
アラン「ちょっと待ってろ。」
アランがカウンター席に座るオーナーに背後から声をかける。
アラン「すみませんポーターさん。」
ポーター「ん?」
アラン「子供を下まで送っていくので、その間カウンター見ててもらえますか?」
ポーター「ああ、了解。」
アラン「すみません。」
ポーター「気にすんな。」
眠ったままのミカエルを抱きかかえて二人が店を出る。
ジャスミン「この子、あんたのことずっと見てたわよ~。」
アラン「知ってるよ。仕事やりずらいったらない。」
ジャスミン「かっこよかったって。」
アラン「・・・当たり前だ。」
ジャスミン「照れちゃって。」
ジャスミン「私もたまにはいいことするでしょ?」
アラン「いいこと?余計な事の間違いだろ。」
ジャスミン「ったく、あんたってホント口悪いわね。顔がいいだけに余計に腹が立つわ。」
アラン「シッターの仕事ほったらかして店に来る奴があるか。」
ジャスミン「いいアイデアだったと思うんだけどな~。」
アランがため息をついた。
深夜。
閉店前の店内は客も少なく静かだ。
マッテオ「まさかミカエルが来てるとは思わず驚きましたw」
アラン「俺もだ。」
マッテオ「一緒に居た女性はシッターですか?」
アラン「そうだ。あいつが勝手に連れてきた。」
マッテオ「シルバーさんの・・・恋人とか?」
アラン「なわけねーだろ。」
アラン「元々この店の客だ。あんたがミカエルを押し付けた後にたまたま街で会ったから雇っただけだ。ちょうどあの女も職探ししてたし。」
マッテオ「そうでしたか。まぁ・・・僕も本気で恋人だとは思ってませんでしたよ。あなたには彼女は不釣り合いだ。」
アラン「へぇ。」
マッテオ「はい。」
アラン「じゃあ俺にはどんな女なら釣り合うと思う?」
マッテオ「そうですね・・・。もっと品があって・・・年上の落ち着いた女性ですかね?」
アラン「まぁ確かに年上のほうが好きかもな。」
マッテオ「精神年齢の落ち着いた女性の方が、シルバーさんとは話が合いそうですね。」
アラン「落ち着いた女性か。(あの頃まだ若かったけど、リアはなんか達観した雰囲気あったよな。包容力とか。)」
アラン「あんたはどうなんだ?」
マッテオ「僕ですか?」
アラン「好きだった女はもうこの世に居ないし・・・って、フィアンセがいたんだったな。」
マッテオ「親の決めた相手なので僕には拒否権はないんですよ。」
アラン「てことはいいとこのお嬢様か。」
マッテオ「まぁそうですね。彼女も・・・好きな相手を選べなくて可哀そうだと思っています。」
アラン「決められた相手か。」
マッテオ「昔から知っている者同士ですしラクではありますけどね。恋愛のいろはを一からはじめなくていいわけですし。」
アラン「でも意外とそういうほうがいいのかもな。」
マッテオ「そう思いますか?」
アラン「ああ。将来的に不安もないだろ。ちゃんと相手がいるんだから。」
マッテオ「それはありますね。政略結婚なのでよほどのことがない限り離婚はないでしょうし。」
アラン「うん。」
マッテオ「まぁ、相手の女性は大人しくて静かな方で性格も悪いくないので僕は恵まれているのかもしれません。」
アラン「そうか。・・・あんたも色々大変そうだな。」
マッテオ「お互いの家の問題もありますし、こればっかりはしょうがないです。まぁ、マジソン家ほどの大富豪ではないのでそんなに堅苦しいものでもないんですよ。」
アラン「そうか。」
マッテオ「シルバーさんは、好きな方とかいらっしゃらないんですか?」
アラン「さぁな。」
マッテオ「それはどういう・・・。」
アラン「秘密ってことにしとく。」
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