ブリッジポート永眠墓地。
雨上がりの空はいまだ曇っていた。
ロミオの墓の前に佇むアイビー。
赤い薔薇の花束を墓へ手向ける。
アイビーがそっと手を合わせる。
静かに足音がして、女性がアイビーへと近づく。
ミランダ「もう来てたのね。」
アイビーが振り返る。
アイビー「ミランダさん・・・。」
ミランダ「久しぶりね。」
ミランダ「週刊誌にいろいろ書かれてたけど・・・・顔色はよさそうね。少し痩せた?」
アイビー「・・・・はい。」
ミランダ「今日会えてよかった。あなたと話したいと思っていたの。」
アイビー「私も・・・ミランダさんに会いにいくつもりでした。」
ミランダ「それは意外ね。」
アイビー「ロミオが・・・会うようにって。ゆうべ夢に出てきて・・・。」
ミランダ「そう・・・。あの人がそんなこと・・・・。」
アイビー「はい・・・。」
アイビー「ミランダさん、葬儀のときはすみませんでした。まともに挨拶もしなくて、私・・・・。」
ミランダ「わかってるわ。私があなたでもきっとそうだったと思うから。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「このあと時間あるかしら。あなたに話したいことがあるのよ。」
アイビー「はい。」
ミランダ「リリィの事務所へ行くから、一緒に来てくれる?」
アイビー「社長の?」
ミランダ「ええ。リリィも交えて話したいことがあるの。」
アイビー「・・・・。」
数時間後。
アイビーとミランダはアイビーの所属するモデル事務所の社長室にいた。
ミランダ「単刀直入に言うわね。私がロミオの子を妊娠しているの、彼から聞いていたかしら?」
アイビー「はい。」
ミランダ「そう。そのことについて彼と話し合った?」
アイビー「いえ・・・。ロミオは・・・・ミランダさんの妊娠のことを告げた後部屋を出て・・・・その晩事故にあったので。」
ミランダ「そう・・・。」
アイビー「ロミオも、すごく悩んでいたんだと思います。」
ミランダ「そのようね。マスターにも話を聞いたけど、彼は事故に合う直前まで決断できていなかったらしいから。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「あなたの意見はひとまずあとで聞かせてもらうとして、まずは私の意見を言わせてもらうわね。」
アイビー「・・・・はい。」
ミランダ「私はこの子を産むつもりよ。」
ミランダ「彼が残した最後の財産だもの。それに私の血を受け継いでもいる。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「婚約者であるあなたはまだ彼とは結婚の契約もしていない。産むことについてはあなたは口出しできないわね。彼との関係は、あなたがロミオと婚約する前の話だし。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「ここからは私についてのことなんだけど・・・。私は生まれつき心臓が弱いの。」
アイビー「・・・・そうだったんですか?」
ミランダ「ええ。これは身近な人しか知らない話よ。表ざたにはしていなかったから。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「私は昔から医者に子供はできないだろうと言われていたわ。薬を常用しているせいもあるけど、元々妊娠しにくい身体だったの。それに心臓のこともあるから、たとえ妊娠しても産むのはムリだってね。」
アイビー「・・・・それって・・・・。」
ミランダ「それでも産むつもりよ。私の命に代えてでも。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「下手をすれば両方の命はないとも言われているわ。二人とも助かる見込みは50%だそうよ。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「もう5ヶ月に入っているの。今中絶するのは私の身体にかなりの負担がかかるわ。まぁ、中絶する気はもうないけど。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「私は別に死にたいわけじゃない。できればもっと生きたいと思うわ。この子と一緒にね。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「でももしどちらか一人しか生き残れないとしたら、私は迷わずこの子を選ぶつもりよ。遺書にもそう書いたわ。」
ミランダ「リリィは古い友人なの。私の個人事務所の副社長をやってもらってる。管理はほとんど彼女に任せているんだけれど。」
リリィ「・・・・。」
ミランダ「彼女には私の財産管理もすべて任せてあるの。ロミオとの共有財産もね。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「私が死んだら、すべておなかの子に相続するように遺書に書いたわ。」
ミランダ「あの家・・・あなたが住んでいるあの家も共有財産のひとつなんだけど・・・あれはあなたにあげるわ。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「あそこには思い出もたくさんあるでしょう。さすがにそれを奪う気はないから安心して。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「それから・・・・これが一番言いたかったことなんだけど。」
アイビー「・・・・。」
ミランダ「もしも私が死んで、この子が無事に生まれてきたら・・・・あなたに育ててほしいの。」
アイビー「え・・・・?」
ミランダ「一番適役だと思うの。この子の母親役は。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「アイビー、あなたが断れば私が引き取るつもりよ。」
アイビー「社長が・・・?」
リリィ「私ね、子供が生めないの。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「まぁ生めない身体、ってわけじゃないんだけど・・・・モデルたちが噂してるだろうからあなたも聞いたことがあるでしょう?」
アイビー「・・・・。」
リリィ「私レズビアンなの。」
リリィ「精子バンクとか、ああいうのはイヤなのよ。よく知りもしない男のDNAをもらってまで、子供をほしいとは思わないし。」
アイビー「・・・・。」
リリィ「ロミオのことは昔からよく知ってる。ミランダとロミオは出会った頃は常に一緒だったの。その二人の子供ですもの。あなたが拒否すれば私は喜んで育てるつもりよ。」
ミランダ「もちろん、この子が無事に生まれてきて私の命にも別状がなければ、私が自分で育てるつもりよ。経済的にもなんら問題はないわ。」
アイビー「予定日は・・・いつなんですか?」
ミランダ「3月5日。」
アイビー「3月・・・・。」
アイビー「少し・・・・考えさせてもらってもいいですか?」
ミランダ「もちろんよ。連絡先を教えるから、決まったら連絡してちょうだい。あなたのサインも必要になるから。」
アイビー「・・・・はい。」
アイビー「・・・・。」
アイビー「 (私が・・・・ロミオの子を・・・・。) 」
数日後。
スターライト ショア。
ララ「そうなの。アイビー元気なのね。安心したわ・・・。」
ラトーシャ『ごめんね。ララも心配したよね。』
ララ「できれば私もブリッジポートへ飛んでいこうかと思ってたところよ。」
ラトーシャ『ララもう臨月でしょう?さすがにそれはダメだよ。』
ララ「でもまだ予定日は来週だから大丈夫よ。」
ラトーシャ『ご両親は?家にいてくれてるの?』
ララ「今日はデートよ。うるさいから私が追い出したのw」
ラトーシャ『追い出したって。大丈夫なの?』
ララ「大丈夫よ。最近は私体調もいいの。散歩のおかげかしらね。」
ララ「それよりそっちはどうなの?ラトも毎日アイビーのところに通って疲れがたまってるんじゃない?」
ラトーシャ『私は平気。ただアイビーのことで・・・ディーンと二人で病院に入れようかってところまでいってたから・・・・精神的にね。』
ララ「そうだったのね。アイビー、そんなに危なかったのね。」
ラトーシャ『うん・・・・。やっと元に戻ってくれたから、二人とも安心してるところ。』
ララ「そう・・・。まだアイビーの家には通ってるの?」
ラトーシャ『アイビーは今日から仕事だっていうから、これからはたまにでいいかなって。』
ララ「そう。仕事あるなら安心ね。ジーンさんたちもいてくれるし。」
ラトーシャ『そうだね~・・・。』
ララ「アイビーにはそばにいてくれる男性が必要かもしれないわよ。」
ラトーシャ『そうかな~・・・。でも一度も会いにこなかったよ?』
ララ「マロンさん・・・だったわよね?同じBiBiの・・・。」
ラトーシャ『うん。』
ララ「その人もアイビーの面倒見てくれてたんでしょう?もしかしたら、その人が遠ざけてたのかもしれないわね。同じ仕事仲間だし・・・いろいろ知ってそうだから。」
ラトーシャ『あ~・・・・そうなのかな。私はてっきり・・・・あ、ごめんララ。ママから着信だ。またあとで電話していい?』
ララ「ええ。ごめんね長話しちゃって。電話ありがとう。」
ラトーシャ『うん。またねララ。』
ララ「ええ。またね。」
携帯電話を切って画面を見つめる。
ララ「 (アイビーのこと、ホントによかった・・・。週刊誌やテレビはおかしなことばかり言われてたし・・・。アイビーは悩み事があっても人に相談する子じゃないから・・・・。産まれたら会いにきてくれるかしらね・・・・。元気な顔が見たいわ。) 」
ララ「ココア冷めちゃったわね。入れなおしてこようかしら。」
ララがソファーから立ち上がる。
ララ「あっ!」
突然の痛みにおなかを押さえる。
ララ「 (大変・・・・破水したみたい・・・・。どうしよう・・・・予定日よりまだ1週間もあるのに・・・。ママたちもいないし・・・・タクシーでも呼んで・・・・。) 」
ララ「ああ・・・・。」
そのとき玄関が開いてマリアとKが帰ってきた。
K「せっかく予約入れてたのに・・・。」
マリア「またいけばいいわよ。ただいまラ・・・ララ?!」
ララ「ママ・・・・よかった。破水したみたいなの・・・・。」
マリア「なんですって?!胸騒ぎがしたのよ。ほら、だからいったでしょうパパ。」
K「き、救急車か!」
マリア「落ち着いてパパ。すぐに車を出して。私は病院に電話をいれるから。」
K「わ、わかった!」