お気に入りの場所

玄関のドアを開けるとミランダが立っていた。


ミランダ「久しぶりね。」

ロミオ「俺も話したいと思ってたところだ。」

ミランダ「なぁに？」

ロミオ「入れよ。コーヒーでいいか？」

ミランダ「えぇ。」

ロミオがキッチンに立ってコーヒーを入れる。


ロミオ「最近仕事忙しいか？」

ミランダ「まぁまぁね。この前撮った映画がもうすぐ公開になるから、そしたらまた忙しくなるわ。」

ロミオ「そうか。」

ロミオ「大変だな・・・。女優さんは。」

ミランダ「私には合ってるみたいよ。」

ロミオ「確かに・・・お前はモデルのほうは合ってなかったもんな・・・。」

ミランダがドレスを脱ぐ。


ロミオ「この前話してた写真、探したら出てきたぞ。あとで渡す・・・。」

ミランダが全裸のままロミオの背中に抱きついた。
ロミオが言葉に詰まる。

ロミオ「ミラ・・・服を着ろ。」

ミランダ「着たままがよかった？」

ロミオ「そうじゃない。」

ミランダ「ここでする？たまにはベッドじゃないのもいいわよね。昔みたいに・・・。」

ロミオ「ミラ・・・。」

ミランダ「それとも屋上へあがる？」

ミランダ「ねぇロミオ。たまには昔みたいに激しく抱いて。」

ロミオ「ミラ・・・やめてくれ。俺はもうお前を抱けない。」

ロミオが離れる。


ミランダ「どうしたっていうの？」

ロミオ「あいつと約束した。」

ミランダ「・・・この前来た子ね。」

ロミオ「あぁ。」

ミランダ「別に私は気にしないわ。」

ロミオ「俺が気にする。」

ミランダ「・・・・彼女のこと、本気なの？」

ロミオ「・・・・。」

ミランダ「あなたがかわいがるのもわかるわ。あの子・・・・彼女と同じ目をしてた。」

ロミオ「・・・・服を着てくれ。」


脱ぎ捨てられたドレスをロミオが拾い上げ、ミランダに渡す。

ミランダ「飽きたら連絡して。私はもうすぐしたらしばらく家を空けることになると思うから。」

ロミオ「・・・・。」

ミランダ「じゃあねロミオ。」


ミランダが部屋を出て行く。

ロミオ「・・・・。」

早朝。
ロミオがシャワーを浴びている音が室内に響く。
お泊りをしていたアイビーはロミオのシャツをパジャマ代わりに着ていた。
アイビーが部屋の隅のドアの前に立つ。

アイビーがドアノブに手をかける。


アイビー「　（鍵がかかってる。この部屋なんなんだろう？ちょっと気になるな～。）　」

ロミオがバスルームから出てきた。


ロミオ「なにやってるんだ？」

アイビー「・・・・ここ、なんの部屋なの？」

ロミオ「屋上だ。」

アイビー「屋上？ただの？」

ロミオ「あぁ。」

アイビー「どうして鍵がかかってるの？」

ロミオ「特に意味はない。」

アイビー「え～。入ってみたいな。」

ロミオ「ダメだ。」

アイビー「なんで？」

ロミオ「なんでも。」

アイビー「ケチ。」

ロミオ「ケチで結構。」

ロミオ「ほら。でかけるぞ。早く着替えろ。」

アイビー「・・・・。」

アイビー「　（秘密にされたらよけい気になる・・・・。）　」

海沿いにある植物園。
まだ時間が早いために誰もいない。

園内のベンチに座るアイビーとロミオ。


アイビー「落ち着く・・・。」

ロミオ「気に入ったか？」

アイビー「うん。はじめて来た。よく知ってるね、こんな場所。」

ロミオ「まぁな。俺のお気に入りの場所だ。」

アイビー「へぇ～。なんだか意外。」

ロミオ「朝は誰もいなくて穴場なんだよ。」

アイビー「そうなんだ？なんか・・・嬉しいな。」

ロミオ「なにが？」

アイビー「お気に入りの場所とか・・・ロミオさんが連れてきてくれるなんて思ってなかったから。」

ロミオ「どんな男だと思ってんだよ。」

アイビー「え～・・・秘密主義なのかとｗ」

ロミオ「ははっ。それは関係についてだけだ。」

アイビー「蝶がいっぱいいるね～。」

ロミオ「ここの名称『蝶の散歩道』だからな。」

アイビー「そうなんだ？」

ロミオ「腹減ってないか？」

アイビー「まだ平気。私、朝弱いからちょっとぼーっとしてたい。」

ロミオ「そうか。モデルの仕事は深夜が多いからな。」

アイビー「うん。でも、たまには早朝デートもいいね。」

ロミオ「デートか・・・。」

アイビー「あ、違うのかな？」

ロミオ「いや。デートだろ。俺も久しぶりだ。早朝デート。」

アイビー「そうなんだ？」

ロミオ「お前、もうちょっとこっち寄れよ。」

アイビー「え？」

ロミオ「ほら。」

ロミオがアイビーの体を引き寄せ抱きしめた。


ロミオ「寒くないか？」

アイビー「うん。私は大丈夫。」

ロミオ「てかお前、そのメガネ変装のつもりか？」

アイビー「一応・・・。」

ロミオ「あんまり意味ないぞそれ。」

アイビー「え～？そうかな？」

ロミオ「お前だってバレバレだ。」

アイビー「　（なんか・・・すっごく幸せな気分だな・・・。こんなの久しぶり・・・・。ロミオさん・・・優しい。）　」

突然ロミオがアイビーにキスした。


アイビー「ちょ・・・。」

ロミオ「なんだ？」

アイビー「人が来るかも。」

ロミオ「こねぇよ。昼前にならねぇとここは人こねぇんだから。」

アイビー「・・・・。」

ロミオ「それにお前、一応変装してるんだろ？」

アイビー「意味ないって言ったくせに。」

ロミオ「ははっ。」

二人が唇を重ねる。
波の音と鳥の鳴き声だけが静かに響いている。

アイビー「　（幸せ・・・・。ロミオさん、大好き・・・・。）　」