晴れた日の午後。
ブリッジポートの街を一台のタクシーが走る。
アンナ「このあとBiBiの撮影で今日は終わりね。」
アイビー「明日のスケジュールは?」
アンナ「明日はCM用のポスター撮りとインタビューが3本よ。」
アイビー「・・・次のお休みいつですか?」
アンナ「次は来週の木曜ね。」
アイビー「(来週か・・・2週間ぶり。)」
アンナ「最近目のクマがひどいわよアイビー。」
アイビー「・・・眠れなくて。」
アンナ「・・・少し仕事減らす?」
アイビー「いえ。大丈夫です。」
アンナ「・・・社長に相談・・・。」
アイビー「必要ないです。」
アイビー「大丈夫だから。」
アンナ「わかったわ。・・・ちゃんと寝るのよ。」
アイビー「はい。」
アンナ「この時間なら今日は早く帰れそうね。」
アイビー「はい。アンナさん・・・早めに上がれるようにスケジュール組んでくれて、ありがとう。」
アンナ「それが私の仕事だもの。なにかあればいつでも言って。」
アイビー「はい。」
マロン「あれ?」
マロン「アイビーちゃん、今日顔色悪くない?」
アイビー「え?そうかな?さっきの撮影でクマ消ししてもらったから、ちょっとメイク濃いだけだと思うよ。」
マロン「え~、そうかなぁ?」
アイビー「メイク一度落としたほうがいいかな?」
マロン「ううん、大丈夫。シャドーも薄めだし、次の撮影にもそのままいけそうだから。リップだけ変えようかな。」
アイビー「わかった。」
マロン「ちょっと疲れてるんじゃない?マッサージしようか?」
アイビー「わ~助かる!お願いしていい?」
マロン「もちろん♪」
マロン「そういえばこのあいだね~。」
アイビー「うんうん。」
数時間後。
スタジオでの撮影が終盤に差し掛かっていた。
ギルバート「じゃあ次は小悪魔系のポーズで。」
ギルバート「あ~いいっスね!俺そういう感じすごいタイプッス。」
ギルバート「アイビーちゃんそういう表情も似合うんスよね~。さすがっス。」
カメラのシャッター音が連続して響く。
ギルバート「はい!じゃあ今日はこのへんで終わりましょうか。」
アイビー「は~い。」
アイビー「お疲れ様でしたー。」
ギルバート「お疲れっしたー。」
アイビー「(・・・あれ?)」
小さな段差を降りた瞬間眩暈に襲われる。
ふわりと膝をついてしゃがみ込む。
ギルバート「 ? 」
ギルバート「アイビーちゃん?・・・どうしたんスか?」
アイビー「なんか・・・目がまわ・・・る・・・・。」
ギルバート「え?」
ゆっくりとアイビーの身体が崩れ落ちる。
ギルバート「え?」
ギルバート「あ・・・アイビーちゃん??え??ちょ・・・え?!」
ギルバートがうろたえだす。
ギルバート「ちょ・・・ちょっと待って!マロンさん!!」
勢いよくドアが開いて控室にギルバートが走ってくる。
手にはカメラを握ったままだ。
マロン「それでさ~。」
ジーン「?」
ギルバート「た、大変っス!!」
ジーン「どうしたの?」
ギルバート「アイビーちゃんが!ゆっくり倒れちゃって・・・。」
ギルバートが言い終わらない内にジーンが走り出す。
マロン「ゆっくりってなに?!」
ギルバート「いやホントに・・・ゆ~っくり倒れて。眩暈がするって・・・。」
マロン「え?」
ジーン「アイビー?!」
マロン「ジーンくん!アイビーちゃん大丈夫なの?!」
ジーンの後を追って二人も駆けつける。
ジーン「息はあるんですけど、意識がないみたいです。救急車お願いします!」
マロン「わかった!」
マロンがポケットから携帯電話を取り出す。
ジーン「アイビー?大丈夫か?」
ジーンが意識のないアイビーに声をかけ続ける。
マロン「もしもし?女性が倒れて意識がないんです!・・・ゆっくり倒れたっていうので、たぶん頭は打ってないと・・・。住所ですね、えっと・・・」
アイビー「・・・ん。」
ジーン「目が覚めたか?」
アイビー「ここ・・・。」
ジーン「起きなくていいから。じっとして。」
アイビー「・・・ジーン。」
ジーン「病院だよ。アイビー、撮影中に倒れたんだよ。覚えてる?」
アイビー「えっと・・・撮影終わって、歩き出したら眩暈がして・・・。」
ジーン「そのあと意識がなくなったんだ。たぶん。」
アイビー「そうなんだ・・・。みんなは?」
ジーン「スタジオ残ってもらった。まだ撮影残ってるから。」
アイビー「・・・・!」
アイビー「ジーン、今何時?」
ジーン「10時。」
アイビー「大変っ!家に帰らなきゃ。」
ジーン「家のことなら心配するな。アンナを向かわせるからって。」
アイビー「え?」
ジーン「アイビーの事務所の社長の伝言。さっき電話あった。マロンちゃんが連絡してくれたみたいだよ。」
アイビー「そっ・・か・・・。」
アイビーがふぅと大きく息を吐いて肩を下す。
ジーン「明日の朝アンナさんが荷物もって来るって。」
アイビー「・・・え?」
ジーン「しばらく入院だって。」
アイビー「入院って・・・・私大丈夫だよ?」
ジーン「アイビー、過労で倒れたんだよ。身体が良くなるまで休まないと。」
アイビー「でも・・・。」
ジーン「入院はお医者さんの指示だから。」
アイビー「・・・・ディーンの病院ならよかった。」
ジーン「そうやって早めに退院しようとしてるんだろ。」
アイビー「・・・バレたかw」
ジーン「まったくもう・・・。」
アイビー「ジーン、ごめんね。迷惑かけちゃったね・・・。」
ジーン「まったくだ。」
アイビー「ごめん・・・。」
ジーン「ごめんじゃなくてありがとう、な。」
アイビー「ありがとう・・・ございます。」
ジーン「許す。」
アイビー「・・・w」
ジーン「・・・家のことってなに?」
アイビー「え?」
ジーン「家に誰かいるの?」
アイビー「えっと・・・実は最近・・・。」
ジーン「うん。」
アイビー「猫を拾っちゃって・・・。」
ジーン「・・・猫?」
アイビー「うん。こ・・・子猫なんだ。ほら・・・春だから。野良猫の子猫が産まれる時期でしょう?」
ジーン「飼ってるの?」
アイビー「そう。」
ジーン「ふぅーん・・・。」
アイビー「ジーン。」
ジーン「うん?」
アイビー「心配だから・・・アンナさんに電話してきてもいい?」
ジーン「いいよ。」
アイビー「ちょっと・・・出ててくれる?」
ジーン「わかった。終わったら呼んで。」
アイビー「ごめんね。」
ジーン「うん。」
ジーンが部屋を出ていく。
ゆっくりとベッドから起き上がる。
荷物の中から携帯電話を取り出し、リリィに電話をかける。
アイビー「もしもし。」
リリィ『アイビー?目が覚めたのね。』
アイビー「すみません。」
リリィ『私はまだ手が離せないの。もうしばらくしたら向かうわ。』
アイビー「その必要はありません。ジーンがいてくれるし。それより入院って・・・。」
リリィ『1週間ほど入院が必要だそうよ。』
アイビー「1週間もですか?」
リリィ『医者の言うことはききなさい。詳しい話は明日私も病院に行くから、そのとき聞きましょう。』
リリィ『アダムのことなら大丈夫よ。昼はジャニスがいるし、夜はうちで面倒みることにしたわ。』
アイビー「でも・・・。」
リリィ『任せといて。私もアンナも、こうみえて子供の扱いには慣れてるのよ?』
アイビー「いろいろすみません・・・。」
リリィ『いいえ。私も気が利かなかったわね。もう少し、あなたを休ませてあげるべきだったわ。』
アイビー「いえ・・・。私、アダムのためにも稼がないと。」
リリィ『そうね・・・。あなた今うちの事務所でも1、2を争う稼ぎ頭だし・・・。本当はもう少し仕事入れたいくらいなのよ。』
アイビー「わかってます。」
リリィ『仕事の話はまた今度にしましょう。今はゆっくり休みなさい。』
アイビー「社長、私・・・弟の病院のほうが・・・。」
リリィ『それはダメよ。あなたが今いるのはミランダと同じ病院。そこのほうが設備もセキュリティーもしっかりしてるわ。」
アイビー「・・・・はい。」
リリィ『じゃあもう切るわね。また明日。』
携帯電話を見つめるアイビー。
アイビー「1週間・・・・。」
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