同じ日のブリッジポート。
ロミオの家の横に一台の車が停車する。
車からジーンがおりてきて、玄関へと向かう。
インターホンを押すが一向に中から出てくる様子はない。
ジーン「(お昼食べにでかけてるとか・・・って、子連れのアイビーが簡単にこの街を出歩けるわけないか。電話してみるか・・・。)」
ジーン「・・・・。」
しばらく発信音が続いた後留守番電話に切り替わる。
ジーン「(嫌な予感がする・・・。まさか・・・・・!)」
ジーンが車へと駆け出す。
ジーン「(アイビーが行くとしたら・・・。)」
ブリッジポート空港。
搭乗口前のロビーは行き交う人々で溢れている。
アイビー「・・・・。」
アイビーとアダムは黙ったまま外の雪を眺める。
アイビー「(そろそろ入らないと・・・。)」
アイビーが椅子から立ち上がる。
アイビー「行こう、アダム。」
アダムの手を引いて歩きだす。
アダム「ママ!」
アイビー「どうしたの?」
アダム「ハイジ!」
アイビー「え?」
アダム「ハイジ遊ぶの。約束ちた。」
アイビー「・・・・。」
アダム「ハイジとあそぶ。」
アイビーがしゃがみ込みアダムの頬を撫でる。
アイビー「今日は遊べないの。また今度遊びに行こう?」
アダム「あそぶって。ジンがゆったも。」
アイビー「・・・・。」
アダム「ジンは?くゆ?」
アイビー「今日は来れないって。また今度遊ぼうって言ってたよ。ごめんねって。」
アダム「・・・・こんど、いつ?」
アイビー「当分先になるかな・・・。でもまた今度って、言ってたよ。」
アダム「・・・・あい。」
アイビー「ママと行こう?」
アダムが黙ったまま頷く。
少し不満げな表情のアダムの手を引いてアイビーが搭乗口へと向かう。
アイビー「(アダムにまで嘘ついて・・・・。)」
アイビー「・・・・。」
アイビー「 ! 」
突然腕を強く掴まれ驚く。
アイビー「ジーン・・・・?」
ジーン「やっと・・・・みつけた・・・・。」
ゼェゼェと息を切らしながらジーンが途切れ途切れに言う。
アダム「ジンきた!」
ジーン「どこいくつもり?」
ジーン「ちょっとこっち。」
アイビー「ジーン・・・。」
アイビーの手を引いてロビーの隅へと移動する。
トコトコとアダムが後を追いかける。
アダムがアイビーの足にしがみつく。
ジーン「なにしてんの?俺との約束すっぽかして。」
アイビー「お墓参りは・・・また今度行くよ。」
ジーンの迫力に押されてアイビーは目を合わせようとしないでいる。
ジーン「嘘ついてまで、なんで逃げんの?」
アイビー「もういいでしょう・・・。私たちのことはほっといてよ。」
ジーン「そんなに俺が嫌い?俺がなにしたっていうんだよ?!」
アイビー「別にジーンのせいじゃないよ。私がしたいようにさせてよ。」
ジーン「アイビー、それ本気で言ってんの?いつからそんなに嘘つきになったんだ?」
アイビー「嘘なんかついてないよ。これが本心だから。もう私にかまわないで。」
ジーン「じゃあ俺の目を見て言えよ。今のセリフ全部。」
アイビー「ジーン痛いよ・・・。離して。」
ジーン「・・・・。」
ジーンがゆっくりと腕を離す。
ジーン「なぁアイビー、これからどこに行くつもりだったんだ?」
アイビー「・・・・。」
ジーン「ショア行きはさっき行ったばかりだし、ラッキーパームスにはもう戻らないんだろ?」
アイビー「・・・・どこでもいいでしょ。」
ジーン「・・・・。」
アイビー「ジーンには関係ないよ。」
ジーン「俺の質問には答える気ないってことか。なにも言わずに、黙ってまた消えるつもりか。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「・・・・わかった。じゃあ最後に一つだけ答えて。」
アイビー「・・・なに?」
ジーン「君はそれで幸せ?」
アイビー「・・・・。」
ジーン「・・・・。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「2年前・・・母さんを亡くしてから、俺はたった一人になったよ・・・。親戚もいない。俺に家族と呼べる人はいなくなった。」
ジーン「ずっと孤独だった。」
ジーンの瞳からぽろりと涙がこぼれる。
ジーン「学生の頃君の家に遊びに行ったとき、君は家族に囲まれてた。兄弟も多くて、羨ましかった。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「君んちはみんな優しくて、あたたかくて・・・・ホームドラマに出てくるファミリーそのものだった。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「こんな家族ホントにいるんだって、ちょっとびっくりしたんだ。」
涙声でジーンが小さく笑う。
ジーン「俺んちは小さい頃から母さんしかいなくて・・・でもいつも仕事で忙しくて家にはいなかった。俺も子供の頃からずっとバイトして働いて・・・アイビーんちみたいに家族全員でテレビを見ながら笑ったり、みんなでご飯食べたりしたことがなかった。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「アイビーんちは俺の理想の家族そのものだったんだ。ずっと君が羨ましかった。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「俺は君の家族の一員になりたかった。あんなあったかい家庭を・・・君と作りたかったんだ。」
ジーン「ごめん。」
ジーンが袖で涙をぬぐう。
ジーン「君が幸せならそれでいい。相手が俺じゃなくても。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「だからもう嘘はつかないで。もうこれで最後にするから。笑顔で送り出すから。」
アイビー「ジーン・・・私・・・・。」
アイビー「ツインブルックに行こうと思ったの。あなたの生まれ故郷の。」
あ
アイビー「昔、話してくれたでしょう?田舎だけどのどかでいい所だって。アダムと二人で暮らしていくのにちょうどいいかと思って。」
ジーン「・・・うん。」
アイビー「ジェニファーさんからジーンが小さい頃の話を聞いた時に、あなたの家族の思い出の場所、見てみたいと思ったから。」
アイビー「アダムのことはジーンには関係ないのに・・・・迷惑かけるわけにはいかない。」
ジーン「・・・・。」
アイビー「大好きだから・・・ジーンには幸せになってほしいって思ってた・・・・。」
アイビー「私ね・・・・怖かったの。」
ジーン「・・・・。」
アイビー「あなたが私と同じように、アダムを愛せるかどうかわからない。」
ジーン「君の愛するものなら、俺も同じように愛したいと思ってるよ。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「アイビーが愛した、ロミオさんの子供だもんな。」
アイビー「・・・本当に?」
ジーン「うん。」
泣き崩れるアイビーをジーンが抱きしめる。
涙で声にならないふたりはお互いに強く抱きしめあう。
同じ気持ちを分かち合うように。
アイビー「ごめんなさいジーン・・・。いっぱい嘘ついて・・・。」
ジーン「うん。」
アイビー「ロミオもミランダさんも死んじゃったのに・・・・私だけ幸せになるなんて・・・・そんなのずるいって・・・・。」
ジーン「そんなわけないだろ。」
アイビー「大事な人を・・・これ以上失うくらいなら・・・最初から離れたほうがいいって・・・。」
ジーン「なに勝手なこと言ってんだよ。」
ジーン「君は幸せになっていいんだ。幸せにならなきゃダメなんだよ。アダムの為にも。」
アイビー「うぅっ・・・・。」
ジーン「愛してるアイビー。もう絶対に離さない。」
アイビー「ジーン・・・・私も・・・愛してるよ。」
二人の唇が重なる。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、お互いを求めるように何度も激しく舌を絡ませる。
アダム「ママ・・・・。」
ジーン「アダム・・・もう少しだけ待って。」
アダム「・・・まだ?」
ジーン「もう少し。」
アイビー「・・・ふふっw」
アイビーが涙声で小さく笑った。
ブリッジポートの街に雪が降り積もる。
こんこんと。いつまでも。
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