ふいに病室のドアが開く。
アイビー「ジーン。」
ジーン「アイビー、来てたんだ?話し声がすると思った。」
アイビー「うん。でも私はそろそろ行かないと。」
ジェニファー「あら、もう帰っちゃうの?」
アイビー「はい。このあと仕事もあるので。」
ジェニファー「そう・・・。もっとお話ししたかったわ。」
アイビー「また来ます。」
ジェニファー「本当に?約束よ?」
アイビー「はい。必ず。」
ジェニファー「今日は来てくれてありがとうね。」
アイビー「いえ。ジェニファーさんも、元気そうで安心しました。」
ジーン「母さん・・・痩せただろう?」
アイビー「・・・・うん。」
ジーン「癌が肝臓に転移したんだ。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「クリスマス前には一時退院までできたのにな。徐々に食欲も減ってきたと思ったら、春の検査で転移してることがわかったんだ。」
ジーン「母さんの体力がなかなか戻らなくて、手術もできない。」
アイビー「ジーン・・・大丈夫?」
ジーン「うん。俺は平気。」
ジーン「また今年もクリスマスパーティー、やらせてあげたいな・・・。」
アイビー「・・・・そうだね。」
ジーン「・・・・。」
ジーン「ごめんな。暗い話になっちゃって。」
アイビー「ううん。」
アイビー「私にできることがあるなら言ってね。」
ジーン「うん。ありがとう。」
ジーン「会いにきてくれると母さんも喜ぶ。」
アイビー「それくらいしかできないよ。」
ジーン「いいんだ。」
ジーン「話し相手になってくれると助かるよ。」
アイビー「うん。」
ジーン「ありがとな。アイビー。」
アイビー「うん。」
ロッキングチェアに座るアイビーがぼーっと宙を見上げている。
腕の中のアダムは静かに眠っていた。
アイビー「(ララからアドバイスもらったロッキングチェア、ホントによく効くなぁ。さっきまであんなに泣いてたアダムがぐっすり眠ってる・・・。もっと早くに知っていればよかった。)」
アイビー「(私の抱き方が悪かったのかな・・・匂いとか・・・。撮影で色んな服を着るし、色んな匂い付けて帰ってくるから・・・アダムも不安になるのかもしれないな・・・。)」
アイビー「(それにしてもジーン・・・・この半年、お母さんのことで色々心配事もあったかもしれないけど・・・なんにも言ってくれなかったし・・・ずっと独りで抱えてたのかな。・・・だから早く安心させてあげたいと思って、私とのこと焦ったんじゃないのかな・・・。)」
アンナ「お邪魔するわよ。」
アイビー「アンナさん。」
アンナ「鍵開けっ放しなんて物騒じゃない。気をつけなさいよ。」
アイビー「・・・すみません。さっき宅配便が届いてから、きっと締め忘れちゃったんだ。」
アンナ「チャイム鳴らしたけど出てこないし、心配したわ。ぼーっとして・・・大丈夫?」
アイビー「はい。アダムを寝かしつけたら私までうとうとしちゃってました。お迎えですよね?今寝たばかりなので・・・また泣いちゃうかも。」
アンナ「平気よ。おいで~・・・いい子ねアダム。今日は私たちと過ごしましょうね。」
アイビー「・・・・。」
アンナ「じゃあ、明日の朝また連れてくるわね。」
アイビー「はい。よろしくお願いします。」
アンナ「顔色が悪いわ。あんまり寝てないんでしょう?」
アイビー「大丈夫です。」
アンナ「あなたもゆっくり寝なさい。明日は朝から泊りのロケでしょう?アダムは明日も私たちが預かるから心配しないで。」
アイビー「はい・・・。」
アンナ「じゃあね、おやすみなさいアイビー。」
アイビー「おやすみなさい。」
アイビー「(寝てるときに起こすと必ず癇癪起こすのに・・・アンナさんやジャニスさんのときは泣かない。・・・やっぱりアダムは私のことが好きじゃないのかも・・・。)」
アイビー「(いつも家に居ないし、ママと思ってもらえてないんだ・・・。アダムにとっては、時々面倒みてくれる女の人でしかないのかもしれない。)」
ポロポロと涙が零れ落ちる。
アイビー「(やっぱり仕事辞めてアダムの傍に居てあげるのがママだよね・・・。私、アダムを育てるって決めた時点で、ちゃんと覚悟を決めておくべきだったんだ・・・。今更・・・・。)」
アイビーのポケットの中で携帯電話の着信音が響く。
アイビー「うぅっ・・・。」
アイビー「・・・ママ・・・・。」
アイビーが電話に出る。
アイビー「もしもし。」
クレア『もしもしアイビー?あなたなかなか電話くれないから、久しぶりに電話してみたのよ。元気にしてる?』
アイビー「うん・・・。」
クレア『アイビー?・・・泣いてるの?』
アイビー「ママ・・・あのね・・・。」
クレア『なぁに?』
アイビー「私・・・うちに帰ってもいいかなぁ?」
クレア『いつだって帰ってきていいわよ。あなたのうちなんだから。』
アイビー「うん・・・。あのね・・・・大事な話があるの。」
1週間後。
チャイムの音が鳴り響き、クレアが駆け足で玄関へと向かう。
クレア「はぁ~い。」
クレア「・・・・アイビー?」
アイビー「ただいま、ママ。」
クレア「もう、そんな変装してるから誰かと思ったわ。そろそろ着く時間だってわかってたから気付いたけど・・・。」
アイビー「ごめん。完全に変装したつもりなんだけど・・・ママにはわかるよねw」
クレア「近くで見ないとわからなかったわよ。さぁ、上がって。」
アイビー「うん。」
クレア「あなたが来るっていうから、今日はたくさんごちそう作っておいたのよ。泊まっていくんでしょう?」
クレア「うん。」
アイビー「パパは?」
クレア「もうそろそろ帰ってくるはずよ。ネオは遅くなるって連絡あったから、先にご飯食べちゃいましょう。」
アイビー「私まだおなかすいてないから・・・。」
クレア「そう?じゃあパパが帰ってくるまでお茶してましょうか。」
アイビー「うん。」
紅茶を用意してクレアがテーブルにつく。
アイビー「サムちゃんは?」
クレア「2階にいるわよ。ロドリックがぐずったから気を遣って2階へ行ったみたい。」
アイビー「そうなんだ?」
クレア「さっきまで私が執筆してたから。」
アイビー「そっか。」
クレア「クリフはおとなしくしてくれてて助かるわ。」
アイビー「ロドリックは手がかかるの?」
クレア「まぁ・・・クリフに比べれば、ってところね。クリフは手がかからなかったものね。」
アイビー「そっか・・・。」
クレア「それにしても、完璧な変装ね。」
アイビー「うん。これはウィッグだけどね。」
クレア「そうしてたらホントに街の主婦みたいよ。」
アイビーがメガネを外す。
クレア「泊まっていくってことは、何日かお休みもらえたの?」
アイビー「ううん。2日だけだから明日の午後には戻る。」
クレア「そう。もっとゆっくりしていけたらよかったのに。やっぱり仕事忙しいのね。」
アイビー「うん。」
クレア「ねぇアイビー。」
アイビー「うん?」
クレア「話したい事っていうのは、きっとその子のことよねぇ?」
アイビー「そう。」
クレア「誰の子なの?」
アイビー「ロミオの子。この子の名前はアダムっていうの。」
クレア「・・・・。」
サマンサ「はぁ~・・・やっと寝てくれました~。」
ため息をつきながらサムがゆっくりと階段を降りてくる。
アイビー「サムちゃん。」
サマンサ「・・・アイビーちゃん?」
アイビー「うん。ただいま。」
サマンサ「変装してるから誰かと思っちゃったwアイビーちゃん帰ってきてたんだね。電話してくれたら駅まで迎えに行ったのに。」
アイビー「平気だよ。サムちゃんも子供2人いて大変でしょ。」
サマンサ「でもママさんが居てくれるからすごく助かってるよ~。」
アイビー「そっか。」
サマンサ「おめめパッチリなその子はだあれ?ひょっとして、アイビーちゃんの子供?な~んちゃってw」
アイビー「そう。」
サマンサ「え?」
J「ただいま。」
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