ブリッジポート。
降りしきる雪の中を一台の車が走る。
ジーン「・・・・。」
ジーンはマスターの店を出た後何時間も車を走らせていた。
ようやく自宅へと帰る気になり、夜も深まった頃に家路へと着く。
今年リフォームしたばかりの部屋は綺麗な家具で揃えられている。
以前の家とは違い隙間風もない。
ジーン「ただいま。」
ハイジ「ニャ~。」
ジーンの元へ駆け寄ってきた飼い猫を抱き上げる。
ジーン「遅くなってごめんな。」
ジーン「腹減ったよな。すぐに飯にするから。」
優しく頭を撫でるとハイジが嬉しそうに喉を鳴らす。
キャットフードを取り出しお皿へと注ぐ。
ハイジ「ニャー。」
ジーン「いっぱい食べな~。」
ハイジがご飯にありつくのを確認してからジーンが暖炉に火をつける。
暖炉に火が入り、少しづつ部屋が温まり始める。
ジーンは黙ったまま燃え上がる炎を見つめる。
ジーン「(何時間車走らせて考えても、イライラが止まらねぇ・・・・。やっぱりなにかがひっかかる・・・・。)」
しばらくして暖炉から離れるとソファーに座る。
ジーン「(なんでだろう・・・。やっぱりただ単に俺が認めたくないだけなんじゃないか・・・・?)」
ポケットからスマホを取り出しじっと見つめる。
ジーン「(結構遅い時間だけど・・・電話していいかな・・・・。)」
発信音がしばらく続いてようやく相手が出た。
ララ『もしもし。』
ジーン「ララちゃん、遅くにごめん。今大丈夫かな?」
ララ「ええ。私も・・・ジーンさんと話したいと思ってたの・・・・。」
ジーン「話って?なにかあったの?」
ララ「・・・ローガンに会ってたの、ラッキーパームスで。・・・・今帰ってきたところよ。」
ジーン「ローガンくんに・・・?アンちゃんは?」
ララ『アンドレアも一緒よ。』
ララ「今寝かしつけたところ。飛行機だったし、今日は疲れたみたい。」
ジーン「でもなんで急に・・・?」
ララ『それがね・・・ちょっと長くなりそうなんだけど・・・。』
ジーン「気にしなくていいよ。俺から電話したんだし。」
ララ「ジーンさんにも関わりのある話だから・・・全部言うわね・・・・。私、アイビーに呼ばれたのよ。」
ジーン「・・・・。」
ララ『黙っててごめんなさい。でも前も話したけど、アイビーからの返信は本当にたまにだったのよ。どこに住んでいるかも教えてくれなかった。』
ジーン「・・・そうなんだ。」
ララ「でもこの前突然電話が来て、会いに来てほしいって。アンドレアと一緒に。」
ジーン「・・・それで?」
ララ『一緒に暮らしてる人に会ってほしいって言われたの。恋人でも紹介してくれるのかと思って会いに行ったら・・・・ローガンだったわ。』
ララ「アイビー、ずっとローガンと一緒に暮らしていたの。家政婦の代わりだと言ってたわ。」
ジーン「(家政婦・・・?俺には恋人だと・・・・。)」
ララ『でも・・・ローガンの様子がおかしいから数日間一緒に暮らしてほしいっていうのよ。アンドレアと3人だけでね。アイビーの代わりに家政婦として一緒に過ごしてほしいって。』
ララ「悩んだけど・・・3年も会ってなかったアイビーがやっと本当のことを話してくれたし・・・よっぽどのことかと思ったの。それに・・・そんな風に言われて私もローガンの様子が気になったから・・・。」
ジーン「それで・・・彼の家に?」
ララ『ええ。・・・3日間だけ。』
ジーン「アンちゃんのことは?」
ララ「・・・彼気付いてたわ。だから・・・約束の一晩待たずに帰ってきたの。」
ジーン「どうして?ちゃんと話はできたんじゃないの?」
ララ「・・・途中までは。」
ジーン『・・・・。』
ララ「アンドレアがね、ローガンに言ったのよ。パパになってほしいって。アンドレアのこと大好きって言ってくれたからって・・・。」
ジーン「それじゃあアンちゃんは彼に懐いてたんじゃないの?」
ララ『とても・・・・とてもよくしてもらったわ。アンドレアもローガンのこと大好きって・・・。』
ジーン「じゃあ・・・。」
ララ「彼ね、これからのことを話そうって言ってくれたの。養育費とか、アンドレアの将来のことも・・・。」
ジーン『・・・・。』
ララ「今までできなかった分、父親らしいことがしたいって・・・。」
ジーン「それで?ララちゃんはなんて答えたの?」
ララ『・・・なにも。』
ジーン「なにもって・・・。」
ララ『そのまま黙って帰ってきたの。』
ジーン「・・・・。」
ララ「ジーンさん、私怖いのよ。」
ジーン『・・・・。』
ララ「もしもローガンが父親として養育費を払ったり・・・時々アンドレアと会ったりしたらいつか・・・きっと自分の子供として傍に置いておきたくなるわ。」
ジーン「・・・・。」
ララ『そうしたら親権を争うことになるかも・・・。彼弁護士なのよ・・・。ラッキーパームスでも名の知れた弁護士だって、近所の人も言ってたの。』
ララ「今の私はどう?実家に寄生して両親に頼って・・・まだ仕事も決まってない。そんな女より、弁護士として成功した彼のほうが勝つに決まってるじゃない。」
ジーン『ララちゃん・・・。』
ララ「私そんなの耐えられないわ・・・・。アンドレアを失うなんて・・・そんなことになったら私、もう生きていけない。」
ジーン「ララちゃん落ち着いて。親権は母親のほうが有利なんだから大丈夫だよ。暴力とか育児放棄とかないかぎり、父親の手に渡ることはほとんどないって聞くし。」
ララ『でも・・・。』
ジーン「彼はラッキーパームスに住んでるんだね?連絡先教えてくれる?」
ララ「連絡先って・・・ローガンと連絡とるつもりなの?そんなのやめて。」
ジーン『俺にも関係ある話だって君も言っただろ。』
ジーン「さっきアイビーに会ったんだ。ブリッジポートで。」
ララ「そう・・なの・・・?」
ジーン『ああ。』
ジーン「俺にはローガンくんと付き合ってるって言った。プロポーズされたから、受けるつもりだって。」
ララ「そんなわけ・・・・。」
ジーン『ララちゃんにはアイビーなんて言ってたの?』
ララ「・・・・私にすべてを打ち明けたから・・・ラッキーパームスを出て違う街へ引っ越すって・・・・。ローガンのところへは戻らないと言ってたわ・・・。」
ジーン「ありがとう。話してくれて。」
ララ『ジーンさん・・・どうするつもりなの?』
ジーン「アイビーの言ったことが本当か、確かめに行く。」
ララ『確かめにって・・・ローガンのところに?』
ジーン「ああ。どうせアイビーを問い詰めても、俺には本当のことは話さないだろうし。」
ララ「・・・それでちょっと怒ってるのね?」
ジーン『ごめん・・・。今日ずっとイライラしてたんだ。』
ララ「気にしないで。」
ジーン『ローガンくんに会ったらまた連絡するよ。』
ララ「わかったわ・・・。」
ララとの電話を切った後、ひとつため息をついてソファーから立ち上がる。
テラスへと繋がるドアを開ける。
冷たい風が部屋の中へ注ぎ込む。
ジーン「・・・・。」
翌日。
マスター「忘れ物はないわね?」
アイビー「はい、大丈夫です。」
アイビー「色々お世話になりました。」
マスター「こちらこそ。また掃除しに来てくれるなら、いつでも歓迎するわ。」
アイビー「じゃあ次来るときも掃除しに来ますね。」
マスター「お願いしようかしらw」
マスター「悩んだらいつでも電話して。」
アイビー「・・・はい。」
マスター「タクシー待ってるんでしょう?早く行きなさい。」
アイビー「はい。」
アイビーが出ていく後ろ姿を黙ったまま見送る。
マスター「・・・・。」
アイビー「・・・・。」
空港内の出発ロビーでは飛行機の出発を知らせるアナウンスが流れている。
アダムは大人しくソファーに座り外の景色を眺めている。
アイビーが小さくため息をつく。
アイビー「(雪のせいで飛行機が大幅に遅れちゃった・・・。欠航にならないだけマシかな・・・。)」
ポケットの中で振動したスマホを取り出す。
アイビー「(ララだ。ショアに着いた頃かな?)」
アイビー「もしもし。」
ララ『アイビー?今大丈夫?』
アイビー「うん。今飛行機が遅れてるから・・・たぶん出発にあと1時間はかかりそう。」
ララ『そう・・・。』
アイビー「そっちはショアに着いた頃だよね?」
ララ『そのことだけど・・・・昨日帰ってきたの。』
アイビー「え・・・?そうなの?」
ララ『急だったけど・・・航空会社に問い合わせたらキャンセルのあった席と変えてくれたから、アイビーのチケットは無駄にはしてないわ。』
アイビー「そんなのはどうでもいいんだけどそれより・・・ローガンとなにかあったの?」
ララ『・・・・・。』
アイビー「ララ?」
ララ『・・・アンドレアが自分の娘だって、ローガン気付いたのよ。』
アイビー「・・・それでローガンとは話できたの?」
ララ『ええ・・・。父親らしいことをさせてほしいって。』
アイビー「そっか。」
ララ『アイビーはこうなることを望んでいたのよね?だから私を呼んだんでしょう?』
アイビー「・・・そうなってほしいとは思ってたよ。」
ララ『後のことは考えてた?』
アイビー「・・・・できれば家族3人で暮らしてほしいと思ってた。」
ララ『アイビーの代わりに私がって?』
アイビー「うん。だってそのほうがお互いにとって・・・。」
ララ『もしそうならなかったら?ローガンと親権を争うことになるかもしれないのに?』
アイビー「え・・・?」
ララ『ローガンは弁護士よ。そのうちきっとアンドレアの親権を奪おうとしてくるわ。』
アイビー「ララ・・・ローガンがそんなことするはずないよ。」
ララ『あなたにそう言いきれる?子供好きに変わったローガンが、アンドレアとたまに会うだけの関係で居られると思う?あなたやアダムも居なくなるのに?』
アイビー「ララ、どうしてそこにララが出てこないの?私はララとローガンとアンちゃんと、3人で一緒に暮らすのが一番いいと思うよ?」
ララ『愛してもいないのに?あなたはいいわよ。お互いに恋愛感情がないから成立してたかもしれないけど・・・まぁ・・・それも実際本当かどうかはわからないけど。』
アイビー「ララ・・・。」
ララ『それから・・・ジーンさんから昨日連絡があったわ。』
アイビー「ジーンから・・・?」
ララ『ごめんなさい。ジーンさんからはあなたと会ったって言われたし、今回のこともあったから全部話したの。』
アイビー「そっか・・・。」
ララ『ローガンの連絡先を聞かれたから教えたわ。』
アイビー「え・・・?ジーンに?」
ララ『ええ・・・。ジーンさんには色々相談にも乗ってもらっていたし、信頼できる人だから。』
アイビー「・・・・。」
ララ『・・・ごめんなさい。でもこうなったのは全部アイビー、あなたのせいよ。』
アイビー「・・・謝る必要ないよ。その通りだもん。・・・色々巻き込んでごめんね。」
ララ『・・・それだけ伝えたかったの。』
アイビー「待ってララ。一つだけ聞かせてほしいの。」
ララ『・・・・何?』
アイビー「ララは今でもローガンのこと愛してるんだよね?」
ララ『・・・・。』
アイビー「だから私のお願いも聞いてくれたんだよね?・・・だから今回のことにもこんなに腹を立ててるんでしょう?」
ララ『・・・・。』
アイビー「それならもう一度ローガンとちゃんと話したほうが・・・。」
一方的に電話が切れる。
アイビーがスマホの画面をじっとみつめる。
アイビー「(ローガンに連絡しないと・・・。飛行機が遅れてることも伝えなきゃ・・・。)」
ローガンの番号に電話をかける。
しばらく発信音が続いた後にローガンが電話に出る。
ローガン『はい。』
アイビー「ローガン?私。」
ローガン『ああ。』
アイビー「飛行機が遅れてて・・・そっちに着くの夜中になるかも。」
ローガン『わかった。こっちのことは気にするな。』
アイビー「あと・・・ララのことなんだけど・・・・。」
ローガン『その話なら帰ってから話そう。』
アイビー「うん・・・。騙したみたいな形でごめん。」
ローガン『いや・・・・。確かに驚いたけどな。』
アイビー「それから・・・ジーンのことなんだけど。」
ローガン『・・・なにかあったのか?』
アイビー「うん・・・もしかしたら、ローガンに連絡がいくかもしれない。」
ローガン『・・・・わかった。』
アイビー「巻き込んでごめんなさい。」
ローガン『いや・・・。空港まで迎えに行こうか?』
アイビー「ううん。何時になるかわからないから、タクシーで帰るよ。」
ローガン『わかった。気をつけてな。』
アイビー「うん。じゃあまた。」
アイビー「・・・・。」
ジーン「アイビーから?」
ローガン「ええ。」
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