アイビーは寝室で荷造りをしている。
部屋の真ん中ではアダムが大人しくおもちゃで遊んでいた。
アイビー「(アダムの荷物は終わったし、あとはここと・・・本棚かな。)」
ローガンがドアをノックする。
ローガン「アイビー、入るぞ。」
ドアが開いてアイビーが顔を出す。
アイビー「ごめん、今日忙しかったよね?」
ローガン「大丈夫だ。それより話って・・・。」
ローガンの視線が後ろに積まれた段ボール箱にうつる。
アイビー「時間ある?」
ローガン「・・・・ああ。」
アイビー「入って。」
ローガン「荷造りか?」
アイビー「うん。」
アイビー「ここを出ていくことにしたの。」
ローガン「・・・・。」
アイビー「急な話でごめん。家政婦の仕事、辞めるね。」
ローガン「・・・なんで?」
アイビー「うん。ちょっと前から考えてたんだけどね。」
ローガン「勝手に決めるな。俺の意見は聞かないつもりか?」
アイビー「でも、辞めたいって言った場合は辞めさせてもらえるよね?雇用主と労働者の関係だったら。」
ローガン「そういう話じゃねえよ。」
アイビー「あのねローガン、私ローガンが籍入れてもいいって言ってくれたとき、嬉しかったよ。」
アイビー「でも・・・他に好きな人ができたら解消すればいいって言われたのは正直悲しかった。そんな関係なら最初から必要ないと思う。私には・・・必要ないんだ。それこそ偽りの家族じゃない?」
ローガン「・・・・。」
アイビー「私はやっぱり、愛し合って相手を想いあうのが家族だと思うし、そういう人と一緒に居るのが一番いいと思うんだ。子供の教育にもね。」
ローガン「・・・俺のプロポーズは断るってことか。」
アイビー「あれをプロポーズと呼ぶならそうかな。」
ローガン「(ジーンさんにプロポーズって言ったのはお前だろ・・・。)」
アイビー「それにねローガン、あなたは気付いてないかもしれないけど、愛してる人は別にいるでしょう?」
ローガン「・・・アンドレアか。」
アイビー「アンちゃんだけじゃないでしょ。ララのこと。ジーンに嫉妬するほど大事に思ってたんだよね。」
アイビー「嫉妬って、七つの大罪にもあるよね。一番醜い人間の気持ち。でも一番人間らしい気持ちだと思うんだ。」
ローガン「・・・・。」
アイビー「ローガン、私には絶対嫉妬なんかしないでしょ。」
ローガン「・・・・。」
アイビー「素直になったほうがラクだよ。」
ローガン「なんか上から目線でむかつくな。」
アイビー「ふふっw いつもクールなローガンの人間臭いところがみれたから私嬉しいんだ。」
ローガン「お前はここを出てどこに行くつもりだ?」
アイビー「・・・実はまだ考えてないの。」
ローガン「ジーンさんのところに行くのか?」
アイビー「なんでジーン?」
ローガン「昨日うちに来た。」
アイビー「そうだったんだ・・・?(だから缶ビール・・・。)」
ローガン「ああ。お前にじゃなくて俺に会いにだけどな。」
アイビー「ジーン、なんて・・・?」
ローガン「プロポーズの話が本気か聞かれた。あとはララの話かな。」
アイビー「そうなんだ?」
ローガン「今頃出てきて父親面するなってさ。なんか責任とれみたいなこと言われて腹が立ったけど。」
アイビー「・・・・。」
ローガン「まぁあの人からすればそうかもな。」
ローガン「あとお前の嘘はバレてるぞ。」
アイビー「・・・・。」
ローガン「なんであいつから逃げてるんだ?」
アイビー「だって・・・迷惑かけられないよ。アダムのことはジーンには関係ないし。」
ローガン「それは俺も同じ立場だったと思うけど。」
アイビー「・・・・。」
ローガン「まぁあの人も相当しつこいとは思うけど、迷惑かけたら逆に喜ぶんじゃないかな。お前のストーカーみたいだし。」
アイビー「・・・・。」
ローガン「お前も素直になったほうがラクなんじゃないか。」
アイビー「それさっき私が言ったセリフ。」
ローガン「そういえばそうだな。」
アイビー「なんか上から目線でむかつくw」
翌日。
アイビー「数日分は冷蔵庫にタッパー入れてあるから、チンして食べて。」
ローガン「そんな気つかわんでも・・・。」
アイビー「だってローガンずっとカップラーメンで済ませそうだし。」
ローガン「・・・・。」
アイビー「忙しくてもちゃんとご飯は食べてね。」
ローガン「わかったよ。」
ローガンがしゃがみ込みアダムを引き寄せる。
ローガン「アダム、ママのこと頼んだぞ。お前は男の子なんだから、お前がママを守るんだぞ。」
アダム「あいっ。」
ローガン「よし、いい返事だ。」
ローガンがアダムを抱きしめる。
アダム「ロガン、バイバイ?」
ローガン「今はな。また会いに行くよ。お前がどこに行っても。」
アダム「じぇったい?」
ローガン「ああ、絶対だ。」
ローガンが抱きしめる腕に力をこめる。
二人を見つめるアイビーの頬を涙が伝う。
ローガン「なに泣いてんだよ。」
アイビー「だって・・・・。」
ローガン「なんだ、お前もハグするか?」
勢いよくアイビーがローガンに抱きつく。
一瞬よろめきながらもアイビーを優しく抱きとめる。
アイビー「ローガン・・・今までありがとう。」
ローガン「ああ。」
アイビー「幸せになって。誰よりも・・・。」
ローガン「・・・お前も。元気でな。」
アイビー「うん。」
ローガン「タクシー、待たせてるんだろ。早く行け。」
アイビー「うん・・・。」
ローガン「荷物はあとで送っとくから。」
アイビー「うん。お願いします。」
ローガン「じゃあな。」
アイビー「うん。・・・またね、ローガン。」
アイビーがアダムを抱いて玄関を出ていく。
アイビーたちを乗せたタクシーが海辺の家からどんどん遠ざかっていく。
アイビー「(ローガン、絶対に幸せになって。)」
アイビー「(ずっとずっと・・・あなたの幸せを願ってるよ。)」
ホテルの一室。
裸のままジーンがシャワールームから出てくる。
ラッキーパームスの小さなビジネスホテルだ。
ジーンはこの部屋に数日滞在していた。
デスクの上に置いてあったスマートフォンを手に取る。
アイビーの電話番号に電話をかける。
しばらく着信音が鳴ったあと留守番電話に切り替わる。
ジーン「(出てって言ったのに・・・。朝だし、家事で忙しいのかな・・・。)」
小さくため息を漏らす。
ジーン「(そうだ。ララちゃんにも電話しとかないと。)」
ララの番号へ電話を掛ける。
ジーン「もしもしララちゃん?」
ララ『ジーンさん、おはよう。』
ジーン「おはよう。朝からごめん。忙しかった?」
ララ『いいえ。今ちょうど一息ついたところよ。どうしたの?』
ジーン「俺いまラッキーパームスにいるんだ。」
ララ『そうなの・・・?ジーンさんって行動力すごいのね。』
ジーン「思い立ったらすぐやらなきゃ気が済まないんだよねw」
ララ『それで・・・アイビーには会えたの?』
ジーン「いや、これから会いに行こうと思ってるんだ。」
ララ『そう・・・。』
ジーン「ローガンくんには一昨日会ったよ。」
ララ『え・・・?ローガンと?・・・何を話したの?』
ジーン「色々。」
ララ『ジーンさん・・・ローガンのこと殴ったりしてない?』
ジーン「ははっw そんなことしないよ。俺暴力は嫌いだし。」
ララ『よかった・・・。彼、空手の上級者だし・・・喧嘩なんてしないでよ。』
ジーン「大丈夫だよw ララちゃんの心配するようなことはしてないよ。」
ララ『そう・・・。』
ジーン「もう少し滞在する予定だから、ブリッジポートに帰ったらまた連絡するね。」
ララ『ええ・・・。わかったわ。』
ジーン「じゃあまた。」
ララ『ジーンさん・・・電話ありがとう。』
ジーン「うん。」
ララとの電話を切った後、窓辺へと歩み寄る。
ジーン「・・・・。」
午後。
郵便配達員がローガンの家のチャイムを鳴らす。
事務所で仕事をしていたローガンが椅子から立ち上がる。
事務所のドアを開けて外へ出る。
ローガン「はい。」
配達員「オリーブさんですか?」
ローガン「そうですけど。」
配達員「郵便です。」
綺麗に包装された箱を手渡す。
ローガン「どうも。ご苦労さん。」
配達員がその場を立ち去る。
ローガン「(なんだ?贈り物か?)」
包みを開けると中から出てきたのは先日撮った写真だった。
ローガン「(そういえばあの写真館から郵送したってメールきてたな・・・。)」
しばらく3人が並んだ写真をじっと見つめる。
ローガン「・・・・。」
再び玄関のチャイムが鳴る。
ローガン「(今度は何だよ・・・。今日は来客の予定はなかったはずだが・・・。)」
ローガン「はい。」
ローガンが外へ出ると玄関前にジーンが立っている。
ローガン「なんだ・・・またあんたか。」
ジーン「こんにちは。」
ローガン「今度はなんですか。」
ジーン「アイビーいる?」
ローガン「あいつなら出ていきましたよ。」
ジーン「え?・・・いつ?」
ローガン「今朝。」
ジーン「・・・どこに行ったの?」
ローガン「俺があんたに言うと思うか?」
ジーン「・・・・。」
ローガン「あんたもさっさと帰ったらどうです?ブリッジポートに。」
ジーン「・・・・。」
宅配員「こんにちは~!」
緊迫した空気を壊すように明るい声が響く。
宅配員「オリーブさんのお宅ですか?」
ローガン「オリーブは俺です。」
宅配員「集荷に参りました!」
ローガン「ああ、待ってたよ。こっちです。」
ジーンの横を素通りしてローガンが玄関のドアを開ける。
ドア横に置いてあった荷物を外へ出す。
宅配員「2つですね。」
ローガン「そうです。」
ローガン「これ、おもちゃとか壊れ物も入ってるんで、気を付けてください。」
宅配員「かしこまりました!」
ローガン「ブリッジポートまでなんですけど、どのくらいかかりますか?」
ジーン「(ブリッジポート・・・?)」
宅配員「速達ですか?」
ローガン「いや。あ~、早いほうがいいかな、たぶん。」
ジーン「ローガンくん、ありがとう!」
ジーンが一言声をかけて駆け出す。
ローガン「熱血かよ・・・。」
ぽつりとつぶやく。
宅配員「え?」
ローガン「いや、こっちの話です。」
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