キッチンではジャスミンが夕食の準備をしている。
ジャスミン「出来たわよ~。」
テレビを消してミカエルがキッチンのイスに座る。
ジャスミン「カルボナーラよ。子供ってこういうの好きでしょ?」
手を合わせてミカエルがカルボナーラを口に運ぶ。
ジャスミン「どう?美味しい?」
ミカエルがこくりと頷く。
ジャスミン「ねぇ、あんた・・・ミカエルだっけ。アランってあんたのパパよねぇ?」
ミカエルが首を振る。
ジャスミン「違うの?パパは他の人ってこと?」
ミカエルが頷く。
ジャスミン「ふぅ~ん。」
ジャスミン「(この子が正直に話すわけないか。口がきけないなら色々聞きだすのも無理そうね。アランの話も嘘っぽかったしなんか訳ありっぽいけど・・・。)」
ジャスミン「私も食べよ~っと。」
ジャスミン「食べ終わったらお風呂はいんなさいよ~。」
ポーター「今日はもう平気なのか?」
アラン「はい。心配かけてすみません。」
ポーター「若い頃は暴飲暴食しても平気だったろうけど、30過ぎると色々無理がくるよな。」
アラン「そうですね。」
ポーター「バーテンは客におごられて飲まされることも多いし、腎臓壊すやつも多いんだよな。」
アラン「ムリはしないようにしてるので大丈夫ですよ。」
ポーター「俺も若い頃は全然飲めなかったのに、付き合いで飲むようになってからはもう身体が慣れちまったみたいだ。」
アラン「ポーターさんはお強いですもんね。」
ポーター「今ではすっかりな~。」
ポーター「しかし記憶を無くすことはこの年でもあるんだよ。」
アラン「それはまずいですねw」
ポーター「実はこの前も記憶無くすまで呑んで、目が覚めたら隣に女が寝ててさ。」
アラン「ポーターさん・・・まだそんなことしてるんですか。」
若干あきれ顔でアランが言う。
ポーター「違うんだよアラン。その子は結局今の彼女だからいいんだけどさ。」
アラン「ちゃんと責任とって付き合うことになったんですね。」
ポーター「うん。でも結婚願望の強い子でなぁ。」
アラン「彼女はおいくつなんですか?」
ポーター「31だよ。」
アラン「俺と同い年ですね。それじゃあそろそろ結婚したい年齢ですもんね。」
ポーター「そうなんだよな~。俺はもう結婚はこりごりなんだが・・・。」
アラン「まぁでもお子さんは前の奥様が引き取られていますし、再婚もいいんじゃないですか?」
ポーター「そうだよな~。」
ポーター「君は彼女作らないのか?」
アラン「またその話ですか・・・。」
ポーター「結婚する気はなくても、彼女くらいいてもいいと思うがな。」
アラン「いても俺には責任持てないので。」
ポーター「まぁ女性は結婚したがるもんなぁ。」
ダーリン「オーナーったらまたアランのこと困らせてるの~?」
ダーリン「アラン、さっきと同じのくれる?」
アラン「かしこまりました。」
ポーター「ダーリンは恋人いるんだっけ?」
ダーリン「いるわよ。」
ポーター「何年付き合ってるんだ?結婚はしないのか?」
ダーリン「付き合ってもう5年になるけど、そういう話はでないわね。」
ポーター「なんで結婚しない?君ももう30代だろう?」
ダーリン「あら。結婚がゴールとは思ってないもの。一緒にいられれば別に構わないわ。」
ポーター「しかし、子供が欲しいとは思わないのか?」
ダーリン「私はまだ仕事続けていたいし、今はまだいいかなって思ってるわよ。」
ポーター「でもいつまでも産めるわけじゃないし、女性的には年齢なんかも考えるだろう?」
ダーリン「そうね。いつかは欲しいと思ってるわ。」
ダーリン「まぁ、今の彼と別れたとしても35歳くらいまでには産みたいからそのときは精子ドナーでも探すかな。」
ポーター「精子ドナーか。そういうのって色んな希望が出せるんだろう?やっぱり高学歴とかを希望するわけ?」
ダーリン「私はそこはあまり気にしないわね。それよりも健康的な身体と顔かな。」
ポーター「顔かぁ。やっぱり美形がいいよなぁ。」
ダーリン「好きな人の子供でないなら、やっぱり顔は美形のほうがいいわよね。」
ポーター「確かに。」
店のドアが開き男性客が入ってくる。
アラン「いらっしゃい。」
店に入ってきた客はマッテオだった。
マッテオ「シルバーさんこんばんは。」
アラン「・・・こんばんは。」
アラン「ご注文は?」
マッテオ「前回飲んだものがおいしかったのでそれで。あ、僕がなに頼んでたか覚えてますか?」
アラン「もちろん。」
マッテオ「ミカエルはどうですか?楽しくやってますか?」
アラン「すみません、その話はあとにしてください。」
マッテオ「あ、お仕事中ですもんね。失礼しました。」
アラン「いえ。」
ポーター「アラン、知り合いか?」
アラン「まぁ・・・。」
ポーター「・・・・。」
ダーリン「・・・・。」
ポーター「・・・色々あるよな。」
ダーリン「アランって男にもモテるものね。」
ポーター「うん・・・。」
アラン「二人とも変な推測やめてください。」
ポーター「いや、気にしないで。」
ダーリン「そうそう。こっちの話だから。」
アランが小さくため息をつく。
アラン「どうぞ。」
ポーター「そうそう、さっきの話さ。」
ダーリン「あ、精子バンクの話?なぁに?オーナーも登録したいわけ?」
ポーター「いやいや興味あるだけだってw」
ダーリン「ふぅ~ん。」
数時間後。
閉店前の店内は人がまばらで静かだ。
マッテオ「さっきはすみません。」
アラン「いや、こんなところでパソコン出して仕事はじめたからあんた余計注目浴びてたけど・・・。」
マッテオ「そうですよねw 今は色々忙しい時期で。」
アラン「あんたも若いのに大変だな。」
マッテオ「僕はまだ新米なので。今のうちに頑張らないと。」
アラン「そうか。」
マッテオ「ミカエルはどうですか?実は昨日もここに来てみたんですけど。」
アラン「あんたが急に子守り押し付けたからな。今日はシッター雇ったんだよ。」
マッテオ「そうでしたか。ホント・・・急にすみませんでした。」
アラン「まったくだ。」
アラン「あいつなら心配ない。ゆうべもテレビ観てたらいつのまにか寝てたし。」
マッテオ「そうなんですね。眠れているなら安心しました。」
アラン「・・・・。」
マッテオ「時々眠れないときがあるので・・・。」
アラン「・・・・。」
アラン「そういえば、あいつ泳げるんだな。あの年で大したもんだ。」
マッテオ「3歳からスイミングスクールに通っていたみたいです。それからピアノ教室にも。」
アラン「シングルなのに、あの女はちゃんとした教育させてたんだな。」
マッテオ「ええ。僕も驚きました。なので・・・妊娠は計画的なものだったのではないかと思っています。」
アラン「計画的?」
マッテオ「はい。」
マッテオ「何度も男性に裏切られた彼女は、無償の愛が欲しかったんじゃないでしょうか。子供というかけがえのない愛が。」
アラン「・・・結局死んだじゃねぇか。」
マッテオ「でも、彼女はその子供を殺せなかった。彼女もまた、ミカエルには精一杯の愛情を注いでいたからだと思いますよ。」
アラン「・・・・。」
アラン「ひとつ聞いていいか?」
マッテオ「はい。」
アラン「死んだ男というのは誰だ?」
マッテオ「・・・気になりますか?」
アラン「俺の知ってる男か?」
マッテオ「おそらく。」
アラン「ホストだろう?No,1の。」
マッテオ「はい。あなたが昔バーテンをやっていたホストクラブの元No,1 デュアン マクドウェル氏です。」
アラン「あの女が店でよく指名してた。つきあってたんだな。」
マッテオ「体の関係はあったようです。彼は複数の女性と肉体関係にあったとの証言もあります。」
アラン「あの男についてはあまりいい噂は聞かなかった。」
マッテオ「はい。彼の死因は薬物による事故として処理されていますが、他殺となる証拠が出ないことと容疑者が多すぎて特定できないと知り合いの刑事から聞きました。彼には闇の部分が多すぎます。」
アラン「・・・・。」
マッテオ「アリエルも彼にとってはいいカモだったのでしょう。だいぶ貢がされていたようです。」
アラン「ホストとはそういう仕事だ。騙されるほうも悪い。」
マッテオ「しかし店のルールも守らず、泣き寝入りした女性は多かった。まぁ、犯人が女性とは限りませんが。」
アラン「そうだな。薬物なら本当に事故という可能性もあるし。」
マッテオ「そうですね。」
マッテオ「正直いって、私もそんな男の子供でなくてよかったとも思っていますよ・・・。」
アラン「まだ結果はわからないだろ。本当はそいつの子供かもしれないし。」
マッテオ「確かにあなたが父親でなかった場合、残念ながらその可能性の方が高くなってしまいます。」
アラン「・・・・。」
マッテオ「アリエルはどうしてそんな男ばかり選んでいたんだろう・・・。」
アラン「優しすぎるからだ。」
マッテオ「 ? 」
アラン「だから弱い部分に付け込まれる。自分がいないとだめだと思わされる。自分ならそいつを変えられると思ってしまう。世間知らずのお嬢様だからよけいに騙されやすかったんだ。」
マッテオ「・・・・そうかもしれませんね。」
アラン「お嬢様は鳥籠の中の方が幸せだったかもな。」
マッテオ「・・・しかし、それを拒んでまで自由を求めてしまった。彼女には外の環境は合わなかったんでしょうか。」
アラン「出会った人間が悪かったんだろ。人の出会いには運もある。」
マッテオ「そうですね・・・。」
深夜。
ようやくアランが家路についた。
リビングの電気はつけっぱなしだが二人の姿はない。
寝室のドアを開けるとジャスミンがミカエルの隣で寝ている。
アラン「おい。起きろ。」
静かに声をかける。
アラン「起きろって。」
ジャスミン「・・・ん~・・・今何時よ。」
ようやくジャスミンがベッドから起き上がる。
アラン「大きい声出すな。3時前だ。」
ジャスミン「もう・・・いい夢みてたのに。」
アラン「話はあっちで。子供が起きるだろ。」
ジャスミン「わかったわよ・・・。」
ジャスミン「ふぁ~・・・。」
アラン「あいつの様子は?」
ジャスミン「いい子にしてたわよ~。すごく静かだし。」
アラン「しゃべらないんだからそうだろ。飯は?」
ジャスミン「夕飯ならカルボナーラよ。冷蔵庫に残りあるわよ。食べる?」
アラン「俺の分はいらないっていったろ。」
ジャスミン「せっかく作ったんだから食べなさいよ。あんたもちゃんと食べないと体壊すわよ。バーテンなんて吞んでばっかりでしょう?」
アラン「俺のことはいいんだよ。あいつちゃんと寝てたか?」
ジャスミン「ええ。8時過ぎには自分でベッドへいったわよ。」
アラン「あんたちゃんとそばにいてやったのか?」
ジャスミン「いいえ。あの子が勝手にベッドへ行ったから。」
アラン「そばにいてやれっていっただろ。」
ジャスミン「別にいいじゃない。一人でも寝れてたわよ。」
アラン「寝付くまでそばにいてやれ。最初にそう言っただろ。」
ジャスミン「わかったわよ。明日からそうするわよ。」
ジャスミン「今日はもう遅いし私ここに泊っていってもいい?」
アラン「ダメだ。タクシー呼んであるからもうすぐ来る。それで帰ってくれ。」
ジャスミン「こんな夜中に女を一人で帰すなんて。薄情ね。」
アラン「悪いがここは俺の家だし雇い主なんで。仕事の時間は終わりだ。」
ジャスミン「・・・もう。」
外で車の停車する音がする。
アラン「ちょうど迎えが来たぞ。お疲れ様。」
ジャスミン「手際がよすぎるのよあんた。」
アラン「また明日よろしくな。」
ジャスミン「おやすみ~。」
アラン「おやすみ。」
アラン「・・・・。」
アランが眠っているミカエルを見つめる。
よく寝ているようだ。
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